カスタマーサクセスを意識したサービスデスクへのシフト戦略

はじめに

近年、ITサービスデスクの役割が「トラブルや問い合わせが起きてから対応する受動的な窓口」から、「ユーザーがサービスを最大限に活用し、成功を収めるための支援を行う能動的なパートナー」へと進化してきています。いわゆる「カスタマーサクセス」という考え方が普及し、ITサポートの現場でも「ユーザーが望む成果を得られているか」を重視するようになったのです。

本記事では、「カスタマーサクセスを意識したサービスデスクへのシフト戦略」として、従来の問い合わせ対応型から、よりプロアクティブで価値提供にフォーカスしたサービス運営を行うための具体的な考え方を解説します。ユーザー満足度を超えて、「ユーザーが本当に求めている成果=サクセス」を支援できるサービスデスクへと成長するには何が必要か、一緒に考えてみましょう。


1. カスタマーサクセスとは何か

1-1. サポートからサクセスへ

従来のサポート業務は、ユーザーからの問い合わせやトラブル報告があってから対応を開始し、問題を解決して終わりという流れが一般的でした。しかしカスタマーサクセスの概念では、「ユーザーが欲しい成果(ゴール)」をあらかじめ理解し、その達成をサポートするプロアクティブな活動が重視されます。

1-2. 事業・組織における価値

カスタマーサクセスを意識することで、以下のようなメリットが期待できます。

  • ユーザー満足度の向上: 困ったときに助けるだけでなく、日常的に役立つ情報やアドバイスを提供。
  • ロイヤルティと信頼の獲得: 「このサービスデスクなら安心」「この企業のITサポートは頼りになる」と思ってもらえる。
  • 長期的なコスト削減: 問い合わせが起きる前に問題を予防し、サービスの価値を引き出すことで不要なトラブルが減る。

2. サービスデスクにおけるカスタマーサクセスの要素

2-1. プロアクティブな情報発信

問い合わせが来る前に、ユーザーが陥りがちな問題や新機能活用のヒントを定期的に発信します。たとえば「新しいバージョンの使い方ガイド」「〇〇機能を使えばさらに効率UP!」「よくある操作ミスと解決策」など、ユーザーが必要としそうな情報を先回りして提供するイメージです。

2-2. 利用状況のモニタリング

「ユーザーがどの程度、どの機能を使えているのか」などの利用状況を可視化し、活用度が低いユーザーや部門に対しては個別フォローを行うことがカスタマーサクセスでは重視されます。SaaS製品の世界などでは導入が進んでいますが、社内システムにおいてもログ分析や問い合わせ傾向から「全く利用していない機能を持て余している」ケースを見つけ、サポートすることが可能です。

2-3. 定期的なコミュニケーションとフィードバック

サービスデスクが一方的に情報を発信するだけでなく、ユーザーとの対話を通じて「どんな課題や要望があるか」を継続的に収集する仕組みが必要です。アンケートやヒアリング、チャットでの雑談など、定期的なコミュニケーションを確保すれば、問題が顕在化する前に対処できる可能性が高まります。


3. プロアクティブサポートの実践例

3-1. チャットボットやAIの活用

ユーザーが疑問を持った段階で、すぐにAIチャットボットが回答を提示したり、関連FAQを提案したりする仕組みはプロアクティブサポートの入り口となります。さらに、ユーザーが入力したキーワードから「この問題は深刻かもしれない」と判断したらスタッフに即時連絡し、早期介入するなどの高度な機能も考えられます。

3-2. アップデート情報の自動配信

システムの新機能リリースやバージョンアップの際に、ユーザー個人の利用状況に合わせたアップデート情報やチュートリアルを自動配信することで、問い合わせが起きる前に自己学習してもらう狙いがあります。メールだけでなく、ポータルや社内SNS、通知バナーなど複数のチャネルを活用するのも効果的です。

3-3. セミナーや勉強会の開催

ユーザーがさらにスキルを高められるよう、オンラインセミナーやワークショップを定期的に実施する方法もあります。たとえば「ネットワーク基礎講座」「Excelマクロ活用術」など、直接業務効率化に貢献できそうなテーマを選び、参加者の満足度とサービスデスクのブランディングを同時に高めることが可能です。


4. カスタマーサクセスを意識したサービスデスク運営体制

4-1. 目標設定とKPI

単に「問い合わせを減らす」ことではなく、ユーザーの業務効率や満足度を向上させることをゴールに据えるので、KPIの設計も変わってきます。たとえば以下のような指標を追加することが考えられます。

  • ユーザー活用率(対象システムのアクティブユーザー比率)
  • ユーザー満足度(サーベイやアンケートでのCSAT/NPS)
  • 機能活用度合い(主要機能がどの程度使われているか)
  • オンボーディング完了率(新規ユーザーが何日で基礎機能を習得できたか など)

4-2. スタッフの役割分担

従来の「問い合わせ対応」だけでなく、「ユーザー教育担当」「システム利用状況の分析担当」「カスタマーサクセス専任」などのポジションを設けることがあります。規模にもよりますが、カスタマーサクセスを本気で進めるなら、スタッフの一部を専任化すると成果が出やすいでしょう。

4-3. コミュニケーションチャネル強化

ユーザーが気軽に質問や相談ができる場を複数用意し、SNSやチャットツールなど日頃使い慣れたプラットフォームでコミュニケーションを取りやすくするのも効果的です。ただし、チャネルを増やすほど運用負荷が増えるため、問い合わせ管理ツールの一元化や自動ルーティングの仕組みを整備しておく必要があります。


5. シフト戦略の導入ステップ

5-1. 現状把握と目標設定

まずは今のサービスデスクがどのような問い合わせをどれくらい受けているのか、ユーザーが何を求めているのかを整理し、カスタマーサクセス的な視点からのギャップを洗い出します。そのうえで「3か月後には自己解決率を10%向上」「半年後にはユーザー満足度を○ポイントアップ」など具体的な目標を設定するのがスタートです。

5-2. ピロット運用とフィードバック

いきなり全社的にカスタマーサクセスモデルを導入するのではなく、特定の部署やサービスを対象にパイロット運用を行い、小さな成功体験を積むとノウハウを得やすくなります。ユーザーからの感想やアンケートを収集し、取り組みの効果や改善点を検証しましょう。

5-3. スキル強化とツール導入

スタッフに「ただ問題を解決するだけでなく、ユーザーのビジネスゴールを理解してサポートする」というマインドセットを身につけてもらうには、教育が必要です。さらに、利用状況の分析ツールや定期サーベイの仕組みなど、プロアクティブなサポートを支えるためのシステム整備も不可欠です。

5-4. 全面展開と継続的改善

一定の成果が見えたら、他部門や全ユーザーへ段階的に展開していきます。ユーザー数が増えるほど問い合わせ量も増える可能性があるため、セルフサービスポータルやチャットボットを強化し、スタッフが過度に疲弊しない体制を維持することが大切です。定期的にKPIをチェックし、サービスデスクのビジョンや目標をアップデートしながら持続的に成長させましょう。


まとめ

カスタマーサクセスを意識したサービスデスクへのシフトは、「問い合わせが来てから対処する」という受動的なあり方を脱却し、ユーザーの成功と満足をゴールに据えた“攻めのITサポート”へと進化させる取り組みです。ポイントは以下のとおりです。

  1. プロアクティブな情報提供: ユーザーが困る前に、学習リソースや新機能活用のヒントを発信。
  2. 利用状況のモニタリングと適切なフォロー: データやアンケートを活用し、使われていない機能や困っているユーザーを早期発見。
  3. スタッフの役割分担と評価指標の再設計: カスタマーサクセス専任担当や新しいKPIを導入し、組織的に取り組む。
  4. 小さく始めて継続改善: パイロット運用で得た知見を全体展開し、定期的に見直しながら成熟度を高める。

次回の記事(第26話)では、「利用者教育セミナー:エンドユーザーのリテラシー向上がコストを下げる」というテーマで、サービスデスクが主導するユーザー教育の取り組みがどのように問い合わせ削減や満足度向上に繋がるのかを深掘りします。カスタマーサクセスともリンクする内容ですので、ぜひ続けてご覧ください。

コメントを残す

好奇心旺盛 48歳関西人のおっさん