はじめに
企業によっては、ITサービスデスクとコールセンターが別部門として運営されているケースがあります。コールセンターは主に「電話応対専門の窓口」としてカスタマーサポートを担当し、サービスデスクは「ITインシデントや問い合わせの管理・解決」を担当する、といった役割分担です。両者が密に連携できていれば、お互いの強みを活かした効率的なサポートを提供できますが、連携が不十分だと、たらい回しや情報共有の不備が原因でユーザーが不満を募らせることも少なくありません。
本記事では、「コールセンター」と「ITサービスデスク」が共存している組織で、いかにスムーズに連携し、重複やミスを減らすかについて考察していきます。どちらか片方が外部委託(アウトソーシング)であるケースも含め、役割定義や情報共有、スキルアップの面で注意すべきポイントをまとめました。
1. コールセンターとサービスデスクの違い
1-1. コールセンターの役割
コールセンターは、電話を中心とした顧客対応窓口であり、問い合わせや注文、クレーム対応など幅広い業務を扱うことが多いです。BtoCビジネス(一般消費者向け)では、商品やサービスの利用方法、トラブルなどの相談が入りやすく、スタッフのコミュニケーションスキルが重要視されます。ITリテラシーよりも「電話応対のスキル」「セールストーク」「クレーム処理能力」などが求められる場面が多いでしょう。
1-2. ITサービスデスクの役割
一方、ITサービスデスクは、組織内外のユーザーから寄せられるIT関連の問い合わせやシステム障害、インシデントを管理・解決するのが主な業務です。問い合わせ手段は電話だけでなく、メールやWebフォーム、チャットなど多岐にわたり、インシデント管理ツールを使ってステータスを追跡することが一般的。IT知識を活かしたトラブルシューティングが求められるため、スタッフには技術的な素養やナレッジベースの活用スキルが必須となります。
2. 連携のメリットと課題
2-1. 連携のメリット
- 問い合わせの一元化: ユーザーがどの窓口に連絡しても、必要に応じて適切な担当チームにスムーズに引き継がれるため、「たらい回し」が減る。
- スタッフの専門性を活かせる: コールセンターはコミュニケーション力重視、サービスデスクはIT知識重視という形で分業がはっきりするため、お互いの得意分野を発揮しやすい。
- 費用対効果の向上: 単に電話の応対だけでなく、IT問い合わせや障害受付をコールセンターに一次切り分けしてもらうことで、サービスデスクは高度なインシデント対応に集中できる。
2-2. 連携時の課題
- 情報共有の不備: コールセンターが受けた内容が正しくサービスデスクに伝わらないと、二度手間や誤対応が発生しやすい。
- 責任範囲のあいまい化: どこまでコールセンターが対応し、どこからサービスデスクに引き継ぐのかが明確でないと、クレーム対応時に混乱を招く。
- スタッフのスキル格差: コールセンター側のIT知識やサービスデスク側のコミュニケーション力が不足していると、スムーズな連携が難しい。
3. 役割分担を明確化する方法
3-1. 一次対応と二次対応の切り分け
「一次対応=コールセンター、二次対応=サービスデスク」という形で、窓口と専門部署を分ける例が多いです。具体的には下記のようなフローが考えられます。
- ユーザーが電話で問い合わせ(コールセンター受付)
- オペレーターが内容をヒアリングし、FAQやスクリプトに沿って簡易対応を試みる
- 解決しなければチケットを起票し、サービスデスクへエスカレーション
- サービスデスクが専門的な調査・対応を行い、結果をコールセンターまたはユーザーに報告
このフローを機能させるには、一次対応で解決できる問い合わせの範囲・難易度を定義し、スクリプト化しておくことが重要です。
3-2. エスカレーションルールの整備
コールセンターが対応できる範囲を超える場合、あるいは緊急度が高い場合など、どのタイミングでサービスデスクへエスカレーションするのか、具体的な基準を設定します。「優先度が高いインシデントは○時間以内にサービスデスクへ」「手順書に載っていないエラーコードは即エスカレーション」といった形でルール化すると、現場の混乱を防ぎやすくなります。
3-3. コミュニケーションチャネルの確立
エスカレーションの際は、どのようなチャネル(電話、チャット、チケット管理システム)を使い、どの情報を必須で渡すかを統一しておきましょう。インシデント管理ツールを共通化し、コールセンターとサービスデスクが同じ画面でチケット情報を参照できるようにすると、漏れや重複が減ります。
4. 情報共有とツール活用
4-1. 共通のチケット管理システム
コールセンターが電話で受け付けた問い合わせを、その場でチケット管理システムに登録し、サービスデスクが内容を確認できるようにする運用が理想です。チケットには、ユーザーの基本情報、問い合わせ内容、ヒアリングした内容を漏れなく入力しておきます。サービスデスクが対応を開始したら、経過やステータスをチケットに反映し、コールセンター側も進捗を見守れるようにします。
4-2. FAQ・ナレッジベースの共有
コールセンターのオペレーターは、ITに詳しくないユーザーからさまざまな質問を受けるかもしれません。簡単なトラブルシュート手順やFAQが整備されていれば、一次対応で解決できる範囲が広がります。サービスデスクが日常的にナレッジベースをメンテナンスし、コールセンターにも閲覧権限を付与しておくと、二次対応へ回す必要がない案件を削減できるでしょう。
4-3. レポートと分析
コールセンターとサービスデスクのどちらでどれだけの問い合わせを受け、どのくらいの割合がエスカレーションされているのか、平均対応時間はどうか、といったデータを定期的に集約し、レポーティングすることで改善ポイントを見つけやすくなります。エスカレーション率が高い領域があれば、一次対応でカバーできるようスクリプトやFAQを充実させるなど、戦略的なアクションにつなげられます。
5. 人材育成と運用改善
5-1. クロストレーニング
コールセンターとサービスデスクが相互に理解を深めるために、一定期間スタッフ同士で業務を体験する「クロストレーニング」を導入する企業もあります。コールセンターのスタッフがサービスデスクのオペレーションを見学したり、逆にサービスデスクのスタッフが電話対応の研修を受けたりすることで、連携時のスムーズさやお互いへのリスペクトが生まれやすくなります。
5-2. 定期的な連携ミーティング
部門間で定期的に連携ミーティングを開催し、運用上の問題点や課題を共有しましょう。例えば「最近エスカレーション時の情報が不足している」「FAQが古くなってきている」「ユーザーからのクレームが増えている分野がある」など、生の現場の声を聞いて議論し、改善策を話し合う場を設けます。こうしたミーティングを通じて信頼関係が醸成され、エスカレーション時のやりとりが円滑になります。
5-3. モチベーション管理
コールセンターとサービスデスクのスタッフは、それぞれ求められるスキルセットやキャリアパスが異なる場合があります。コールセンターではコミュニケーション能力を活かした研修や評価制度、サービスデスクではITスキルや問題解決能力を重視した研修やキャリアアッププランを用意するなど、部門の特性に合わせたマネジメントが必要です。
まとめ
コールセンターとITサービスデスクの連携は、ユーザーの利便性を高め、社内外の問い合わせ対応を効率化するうえで大きな効果を発揮します。ポイントは以下のとおりです。
- 役割分担の明確化: 一次対応はコールセンター、専門的な二次対応はサービスデスクといった切り分けをしっかりルール化する。
- エスカレーションフローと情報共有: 共通のチケット管理システムを使い、FAQやスクリプトなどを整備して漏れや重複を防ぐ。
- クロストレーニングと定期ミーティング: お互いの業務を理解し合い、連携を円滑化する工夫を継続的に実施。
次回の記事では、「インシデントの傾向分析:可視化ツールを使いこなそう」をテーマに、問い合わせデータや障害データをどのように分析し、どの部分を改善すれば効果的かを探るための手法を紹介します。ぜひ引き続きご覧ください。