FAQ強化で問い合わせを削減:ナレッジベース活用のヒント

はじめに

サービスデスクが抱える大きな課題の一つは、対応件数の多さからくる「慢性的な業務過多」です。大量の問い合わせに追われ、スタッフが疲弊し、結果的に対応品質の低下を招くことも少なくありません。こうした状況を緩和する有効な手段の一つが「FAQ(Frequently Asked Questions)の強化」と「ナレッジベース(知識データベース)の活用」です。

多くの企業や組織で、FAQやナレッジベースの存在自体は認知されているものの、十分に活用されていないケースが目立ちます。「ページが分かりづらい」「情報が古い」「更新が滞っている」などの理由で、ユーザーは結局サービスデスクに直接問い合わせせざるを得なくなります。本記事では、FAQやナレッジベースの整備を通じて問い合わせ数を削減し、サービスデスクのリソースをより有効に使うための実践的なヒントを紹介します。


1. なぜFAQとナレッジベースが必要なのか

1-1. 問い合わせをセルフサービス化する

ユーザーが簡単に情報を検索し、自己解決できる仕組みを作ることで、サービスデスクに寄せられる単純な問い合わせを減らすことが可能です。特に「パスワードをリセットしたい」「アカウントロックを解除したい」「特定のソフトウェアをインストールする方法を知りたい」といった定型的な問い合わせは、FAQやナレッジベースにきちんとまとめておくことで、大幅に削減できます。

1-2. スタッフの対応品質と効率を向上

FAQやナレッジベースを整備すれば、スタッフもそこから回答内容を参照・コピペするなどして、短時間で正確な回答を提供できます。また、新人スタッフが多いチームや、交代制で運用しているサービスデスクにおいては、情報が集約されていることで対応のばらつきを抑える効果も期待できます。


2. FAQ強化のポイント

2-1. ユーザー視点の設問作り

FAQを作成する際、よくある落とし穴として「運用側の専門用語で書かれている」「社内的な略語や表現を使ってしまう」といったケースがあります。ユーザーが実際に検索しそうなキーワードや質問文を想定し、「○○ができないのですが、どうすればいいですか?」といった形で項目を用意すると、ユーザーが探したい情報に早くたどり着きやすくなります。

2-2. トピックをカテゴリ分けする

FAQが多岐にわたる場合、カテゴリやタグをしっかり設計して整理することが重要です。例としては「アカウント関連」「ネットワーク関連」「ソフトウェア関連」「ハードウェア関連」などのカテゴリに分けておくと、ユーザーは自分が抱える問題の種類に応じて探しやすくなります。あまり細分化しすぎると逆に探しづらくなるので、バランスを考えて設定すると良いでしょう。

2-3. 定期的な内容の見直しと更新

IT環境や社内ルール、利用しているシステムは時間とともに変化します。その変化に合わせてFAQの内容を更新しないと、古い情報が放置されてユーザーが混乱する原因になります。更新作業を怠ると、せっかく作ったFAQが逆効果になりかねないので、定期的なメンテナンスは必須です。更新担当者を決めて、リリースノートや社内ルール変更のタイミングで連動してFAQを修正する仕組みを作ると良いでしょう。


3. ナレッジベース活用のヒント

3-1. ナレッジマネジメントツールの導入

大規模な組織や、多数のシステムを扱うサービスデスクでは、FAQだけではカバーしきれない詳細情報を管理するために「ナレッジマネジメントツール」の活用が有効です。ConfluenceやServiceNow、Salesforce Knowledgeなど、さまざまな製品が市販されています。これらのツールでは、記事のバージョン管理や承認ワークフロー、アクセス権の設定などができるため、組織全体で効率的にナレッジを共有できます。

3-2. スタッフ同士の情報共有促進

ナレッジベースを作っても、スタッフが「面倒くさい」「自分だけ分かっていればいい」と思っていては宝の持ち腐れです。新しいインシデントに遭遇したり、有用な解決策を見つけたりしたら、すぐに情報をナレッジベースに登録する文化を醸成する必要があります。そのために、登録者にポイントを付与する仕組みを作ったり、定期的にナレッジ共有会を開いたりしてモチベーションを高める工夫が考えられます。

3-3. 検索性とタグ付けの最適化

ナレッジベースに記事数が増えると、ユーザーもスタッフも「どこに何が書いてあるか分からない」という状態に陥りやすくなります。対策として、記事にタグやメタ情報を付与し、検索機能を活用することが重要です。また、ユーザービリティの高いインデックスページを作ったり、検索結果を絞り込むためのフィルタを設定したりするなど、使い勝手を常に改善していく姿勢が求められます。


4. 問い合わせ削減のための周知と仕組み

4-1. FAQ・ナレッジベースの利用促進

せっかくFAQやナレッジベースを整備しても、ユーザーが存在を知らなければ意味がありません。新入社員向けのオリエンテーションや社内ポータルサイトへの案内、定期的なメール通知などを通じて、積極的に周知を図りましょう。また、サービスデスクに問い合わせが来た際に「この内容はFAQにありますので、こちらをご参照ください」と案内することで、次回からはユーザー自ら調べてくれる可能性が高まります。

4-2. セルフサービスポータルの構築

FAQやナレッジベースをユーザーがシームレスに利用できるセルフサービスポータルを整備することで、問い合わせを起票する前にユーザーが自己解決を試みる仕組みが作れます。一定の条件を満たせば自動的にナレッジベースの記事が表示されるようにする、あるいはチャットボットを導入して関連する記事を提案するといった高度な取り組みも可能です。

4-3. ユーザーアンケートの活用

FAQやナレッジベースを利用したユーザーに対して、簡単なアンケート(「この情報は役に立ちましたか?」)を行い、フィードバックを集めると改善の糸口が見つかりやすくなります。もし「わかりにくい」「もう少し図解がほしい」といった声が多い場合は、その部分を補強するなど、データに基づいたアップデートを継続的に行うことが重要です。


5. FAQ・ナレッジベース運用のベストプラクティス

  1. 小さく始めて定期更新
    いきなり完璧を目指そうとするとハードルが高くなりがちです。まずは頻出問い合わせから対応するなど、優先度の高い項目に集中し、定期的な更新を重ねて質と量を拡充していく方法がおすすめです。
  2. 継続的なレビュー体制を構築
    古い情報や重複情報が溜まってしまうとユーザー体験が悪化します。定期的に記事をレビューし、不要な情報を削除したり、最新の状況に合わせて修正したりするプロセスを回しましょう。
  3. スタッフの協力を得やすい仕組みづくり
    FAQやナレッジベースの更新作業は、スタッフ全員が協力する必要があります。評価制度の一部にナレッジ貢献度を組み込む、データ登録を極力簡単にするUIを採用するなど、スタッフの手間を減らすとともにモチベーションを上げる工夫を検討しましょう。
  4. 多様な形式のコンテンツを活用
    文章だけでは分かりにくい内容はスクリーンショットや動画、図解を活用し、視覚的に訴求すると理解が深まりやすくなります。特に初心者ユーザーや非IT部門の社員に向けては、専門用語を避け、イラストや写真を多用するなどの工夫が効果的です。

まとめ

FAQやナレッジベースの強化は、サービスデスクの問い合わせを削減し、スタッフがより高度な対応に専念できるようにするための強力な手段です。しかし、単に情報を並べただけではユーザーに利用してもらえず、十分な効果を発揮できません。ユーザー目線に立ったわかりやすい設計、定期的な見直し、そして全社的な周知が成功のカギとなります。

次回の記事では、セルフサービスを推進するための具体的な仕組みづくりや、問い合わせを「発生させない」工夫について、より踏み込んだ視点から掘り下げていきます。自社のサービスデスクが膨大な問い合わせに追われていると感じる方は、ぜひFAQとナレッジベースの運用を再検討してみてください。

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