SLA(サービスレベル合意)の再点検:実態に即した目標設定とは

はじめに

SLA(Service Level Agreement、サービスレベル合意)は、サービス提供側(IT部門や外部ベンダー)とサービス利用側(ユーザー)との間で「どのくらいの品質や速度でサポートを提供するか」を取り決めたものです。ITサービスデスクでは、一次応答時間や問題解決までの目標時間、稼働時間などを明示することが一般的です。

しかし、「形だけSLAを設定しているが、実際には機能していない」「ユーザーから見て過度に厳しい、あるいは緩すぎる」といった問題を抱えている組織も少なくありません。本記事では、SLAを再点検し、実態に即して目標を設定するためのプロセスやポイントを解説します。SLAを有効に活用すれば、サービスデスクの運営方針が明確になり、ユーザーとの信頼関係が強まるはずです。


1. SLAの役割と現状の課題

1-1. SLAとは何か、なぜ重要か

SLAは、サービスの品質保証や期待値コントロールの役割を担います。具体的には「問い合わせ受領後、○分以内に初回返信をする」「重大障害の場合は24時間以内の復旧を目指す」など、数値目標を明確化し、双方が合意する形です。これによって、ユーザーはサービスのレベルをあらかじめ理解でき、サービス提供側も具体的な目標に沿って行動できます。

1-2. よくあるSLA運用上の課題

  • 設定値が机上の空論: 実際のリソースやプロセスを考慮せず、無理に短い対応時間を掲げている。
  • 達成状況のモニタリング不足: SLAを定義したが、それを追跡・報告していないため、有名無実化している。
  • ユーザーの認知不足: ユーザーがSLAを知らなかったり、理解していないため、問い合わせ時の期待値がバラバラ。
  • 達成できてもユーザー満足度が低い: 数値目標は達成しているが、コミュニケーション不足など他の要因で不満が生じている。

こうした課題を放置すると、SLA自体が形骸化し、組織のイメージダウンを引き起こす可能性もあります。


2. 実態に即したSLAを策定するステップ

2-1. 現状データの収集・分析

SLAを作り直す前に、まずは実際の問い合わせデータや平均対応時間、リソース状況などを洗い出します。過去数ヶ月〜1年程度の下記データを参考にするとよいでしょう。

  • 問い合わせ到着から一次応答までの平均・中央値
  • 問い合わせ到着から解決までの平均・中央値
  • スタッフ1人あたりが1日に対応できる件数
  • 問い合わせのピークタイムや繁閑差

これらの数字を把握しておかないと、「理想」の値と「現実に到達可能な値」のギャップが大きくなり、SLAが形骸化する恐れがあります。

2-2. ステークホルダーの要望整理

SLAは、サービスデスクとユーザー(内部であれば各部門の代表者、外部なら顧客企業)の合意が前提となります。そこで、ユーザーに対して「どのくらいの対応スピードが求められているのか」「業務にどんな影響が出ているのか」をヒアリングし、優先度や許容範囲を把握しましょう。同時に、サービスデスク側のリソースや予算の制約とも擦り合わせが必要です。要望が高すぎる場合は、追加予算や人員が必要になるかもしれません。

2-3. KPIと目標値の設定

現状分析と要望整理を踏まえ、「ここまではサービスデスクとしてコミットできる」という数値目標を設定します。たとえば次のようなKPIを盛り込むことが多いです。

  1. 一次応答時間: 問い合わせ受付から初回返信までの時間(メールなら○時間以内、電話なら即時対応 など)
  2. 平均解決時間: 問い合わせ受付から解決・クローズまでの平均時間
  3. 対応率・完了率: 目標時間内に解決した件数の割合
  4. 稼働時間: 平日の9時〜18時はサポート稼働、休日はオンコール対応のみ など

これらに「優先度の高い問い合わせはさらに短い時間で対応」などの詳細ルールを加え、SLAとして明文化します。


3. SLAを組織に定着させるポイント

3-1. ユーザーへの周知と理解促進

新たなSLAを策定したら、ユーザー側にも明確に告知し、理解を得るプロセスが欠かせません。社内イントラやメールでのアナウンスだけでなく、FAQやセルフサービスポータルにSLAの概要を掲載して、ユーザーがいつでも参照できるようにしておくと良いでしょう。また、問い合わせ時の自動返信メールに「当サポートは通常○時間以内に返信いたします」といった文面を含める工夫も考えられます。

3-2. 達成状況のモニタリングとレポート

SLAが形だけで終わらないよう、定期的に達成状況をモニタリングし、レポートを作成して共有する仕組みを整えましょう。たとえば月次で以下のような指標を可視化し、関係者に報告します。

  • 一次応答時間の達成率
  • 平均解決時間の推移
  • 件数が多い問い合わせカテゴリ
  • 繁忙時間帯とスタッフ配置のバランス

報告頻度やフォーマットは組織の体制に合わせて調整するとよいでしょう。経営層やユーザー部門と共有することで、運用への理解や協力が得やすくなります。

3-3. SLA違反時の対応と例外処理

SLAは「必ず守らなければならない」ものですが、予期せぬ大規模障害や自然災害などが原因で対応が難しくなる場合もあります。そうしたケースに備え、「SLAを一時的に満たせなくなる場合はどうするか」を事前に取り決めておきましょう。たとえば「大規模障害発生時には緊急モードとして、他の優先度低い問い合わせ対応を一時停止する」「特定のサービス停止時にはSLAを一時凍結する」といったルールです。また、SLA違反が起きた際のユーザー向けアナウンスや原因分析・報告のフローも定義しておくと信頼を維持しやすいです。


4. SLAを超える“プラスα”の価値提供

4-1. コミュニケーションの質向上

SLAで「○時間以内に回答を開始する」と決めたとしても、回答内容があまりにも事務的・そっけないと、ユーザーの不満が募る場合があります。逆に、ユーザーの状況をしっかりヒアリングし、再発防止策や関連情報を丁寧に提供するなど、コミュニケーションの質を高めることで、SLAの数値以上の満足感を与えられるのです。「定量的な指標+定性的な配慮」のバランスが大切です。

4-2. 先回りサポートや予防的対応

多くの問い合わせが特定のカテゴリに集中している場合、その根本原因を追求し、問題管理を進めることでそもそも問い合わせを減らすことが可能です。SLAはあくまで「発生した問い合わせへの対応速度」を示すものですが、問い合わせそのものを減らす取り組みは、ユーザーにとってもサービスデスクにとっても大きなメリットがあります。FAQやナレッジベースを充実させる、セルフサービスポータルを整備するなどの施策と組み合わせると、SLA達成のハードルが下がり、より安定したサポートが提供できます。

4-3. レビュー会の開催

サービスデスクとユーザー部門が定期的に顔を合わせ、SLAの達成状況や課題を話し合う「レビュー会」を設けると、共通のゴールに向けた連携が深まります。たとえば四半期ごとにレビュー会を開催し、下記のような議題を取り上げると良いでしょう。

  • 達成率が低かった箇所の原因分析と対策
  • 新たに浮上したユーザー部門側の要望
  • 次期の運用スケジュールやリソース計画

こうしたコミュニケーションの場があると、お互いの立場から改善策を出し合い、より実態に即したSLAの更新が可能になります。


5. SLA再点検を成功させるためのヒント

  1. 欲張りすぎない
    最初から高い数値を目標にすると、現場が疲弊して運用崩壊につながります。達成可能な範囲から始め、徐々にレベルアップする方法が堅実です。
  2. 段階的なSLA設定
    問い合わせの優先度や種類によって異なるSLAを設定しても構いません。たとえば「重大障害の場合は2時間以内に復旧へ向けた作業を開始」「軽微な問い合わせは24時間以内に応対」といった具合です。
  3. 可視化と透明性
    ダッシュボードを用意し、リアルタイムで達成状況をモニタリングできる仕組みを導入すると、スタッフの意識が高まりやすくなります。また、ユーザーが閲覧できる形にすることで、透明性を確保しやすくなります。
  4. 継続的な見直し
    IT環境や組織体制は変化します。定期的にSLAを見直し、更新していく運用が重要です。サービスデスクの成熟度が上がれば、より厳しい目標を掲げても達成できるようになるかもしれません。

まとめ

SLA(サービスレベル合意)は、単に「目標応答時間」を取り決めるだけの書類ではありません。適切に運用すれば、ユーザーとの期待値調整をスムーズにし、サービスデスクの活動指針を明確化し、組織全体のITリテラシー向上にも貢献します。しかし、過度な目標設定や形骸化を招くと、かえって不満や混乱を生んでしまうリスクも。まずは現状を分析し、ユーザーや経営層を巻き込みながら無理のない目標値を定め、定期的にモニタリングとアップデートを行ってください。

次回の記事では、定型業務の自動化を推進する「RPA導入事例と注意点」について詳しく説明します。問い合わせ対応における繰り返し作業を減らすことで、より高度なタスクにリソースを振り向けられるようになる施策です。ぜひ引き続きご覧ください。

エスカレーションのルール作り:業務効率と対応品質を両立するには

はじめに

ITサービスデスクの業務には、一度の応対だけでは解決できない案件が必ず存在します。ネットワーク系の障害やシステム基盤の不具合、大規模な障害が発生する可能性もあるでしょう。そこで重要になってくるのが「エスカレーション(上位/専門チームへの引き継ぎ)のルール作り」です。

エスカレーションが適切に行われると、専門家の知見をすばやく活用でき、サービスデスクのスタッフも安心して業務に集中できます。一方、ルールが曖昧だと、不要なたらい回しや対応の遅延が起きてしまい、ユーザー満足度を大きく損ねる結果になりかねません。本記事では、エスカレーションを設計・運用するうえで押さえるべきポイントや具体的な事例を紹介し、業務効率と対応品質の両立を目指すためのヒントをお伝えします。


1. なぜエスカレーションが重要なのか

1-1. 問い合わせ内容の多様化

企業や組織のIT環境は年々複雑化し、サービスデスクが対応する問い合わせも多岐にわたります。あるスタッフが十分な知識を持たない分野の問題に直面したとき、スムーズに専門チームへエスカレーションできなければ、問題解決が大幅に遅延してしまうでしょう。そうした遅延はユーザーから見れば「サービスデスクに連絡しても時間がかかる」という不信感につながります。

1-2. 大規模障害時の迅速対応

システム全体に影響を及ぼす障害や、ビジネスクリティカルな問題が発生した場合、速やかに上長や経営層へ報告し、意思決定を仰ぐ必要があります。エスカレーションのフローが明確であれば、誰がどの段階で報告・対処すべきかがすぐに分かり、混乱を最小限に抑えられます。

1-3. スタッフの心理的負担を軽減

複雑な案件を抱え込んだまま「どう対処していいか分からない」状態が続くと、サービスデスク担当者のストレスは高まります。適切なエスカレーション体制があれば、担当者は「これ以上は専門部署に任せよう」という判断を迷わず行え、無駄な責任や不安を抱えずに済みます。その結果、スタッフの離職率低下にも寄与するでしょう。


2. エスカレーションルールの基本構成

2-1. レベル定義(一次対応、二次対応、三次対応)

最も一般的な方法は、エスカレーション先を階層的に定義するやり方です。

  • 一次対応: サービスデスクスタッフが担当。FAQやナレッジベースを活用し、簡易的なトラブルシューティングや説明を実施。
  • 二次対応: 専門チームやシステム管理者が担当。ネットワーク、サーバー、アプリケーションなど特定の技術分野での知見を活かして問題解決にあたる。
  • 三次対応: ベンダーサポートや上位管理職、経営層。サービス契約や組織の意思決定が必要な問題、あるいは緊急度の高い大規模障害時に対応する。

このように担当範囲を大まかに区分しておくと、サービスデスクの担当者は「どこまでが自分たちの守備範囲なのか」「いつエスカレーションすべきか」を把握しやすくなります。

2-2. エスカレーション基準(優先度・緊急度)

各レベルにエスカレーションするタイミングを明確に定義するには、問い合わせの「優先度」や「緊急度」を設定するのが有効です。例えば次のような例が挙げられます。

  • 優先度高: ビジネスに重大な影響を及ぼす障害(生産ライン停止、取引先との通信不可 など)
  • 優先度中: 部署単位で業務に支障が出るが、回避策が一応存在する障害(特定部署のみメールが使えない など)
  • 優先度低: 個人PCの不具合、操作方法の質問など代替手段があるケース

優先度が高い場合は、一定時間内に二次対応へエスカレーションする、さらに時間が経過したら三次対応へ…というように時間軸と連動させてルールを定める例も多いです。

2-3. コミュニケーションチャネルの明確化

エスカレーション先に連絡する際のチャネル(電話、メール、チャットツールなど)と、連絡の際に共有すべき情報(問い合わせID、障害発生日時、状況説明など)をテンプレート化しておくと、情報伝達がスムーズになります。特に緊急度の高い案件では、電話やチャットなどリアルタイム性の高い手段を優先し、メールは補足的な情報共有に用いるとよいでしょう。


3. 実践的なエスカレーションルール設計例

3-1. SLAと連動した時間制限

多くのサービスデスクではSLA(サービスレベル合意)を定義しており、一定時間内に応対しなければならない目標が定められています。そこで、エスカレーションルールにも「SLAに基づく時間制限」を組み込むと管理しやすくなります。たとえば:

  1. 問い合わせが到着
  2. 一次対応スタッフが最初の回答を行う(SLA:30分以内)
  3. 30分以内に解決の見通しが立たない場合、二次対応へエスカレーション
  4. 二次対応で2時間経過しても解決しない場合、三次対応へ

このように時間を区切っておくことで、案件が宙ぶらりんになりにくく、ユーザーへの対応も滞りません。

3-2. リアルタイム障害時のプロセス

大規模障害が発生した場合、通常のフローとは別に「緊急対応フロー」を用意することが多いです。具体的には、以下のような流れを想定します。

  1. 障害発生を検知またはユーザーから報告
  2. サービスデスクが障害の規模と影響度を即時に判断
  3. 上長・管理者へ連絡(チャットや電話で至急報告)
  4. 障害対応チーム(インフラ担当、アプリ担当など)を呼び出し、状況共有
  5. 外部ベンダーやクラウドサービスプロバイダへの連絡が必要な場合、二次・三次対応へ移行
  6. ユーザーへのアナウンス(復旧見込み時刻や回避策など)を定期的に発信

緊急時ほど、誰がどの役割を担うか、誰に連絡すべきかが明確でないと大混乱に陥ります。平時から手順書や連絡網を整備しておくと、いざというときに迅速に動けます。


4. エスカレーション時のポイント

4-1. 情報をすばやく正確に伝える

エスカレーションを受けた担当者が困るのは、情報不足や誤情報です。たとえば「ただ“動かない”というだけで、何がどう動かないのかが分からない」状態だと、追加の確認作業が増え、対応が遅れます。そこで、サービスデスクでの一次ヒアリングの段階で、できる限り具体的な状況(エラーメッセージ、操作手順、使用環境など)を収集し、チケットにまとめておくことが欠かせません。

4-2. ユーザーへのこまめな進捗連絡

エスカレーション中は、サービスデスクが一時的に対応を手放しているように見えるかもしれません。しかし、ユーザー側からすれば「放置されているのではないか」と不安になることがあります。そのため、一次対応スタッフが定期的に進捗や担当チームの動きを共有し、「いま専門チームが対応中です」「○時頃に再度状況をお知らせします」とアナウンスすると、ユーザーの安心感が増し、クレームを防ぎやすくなります。

4-3. 責任の所在を明確化

エスカレーションしたからといって、一次対応スタッフが完全に責任から逃れられるわけではありません。最終的なチケットクローズまで見届ける「オーナーシップ」を持つことが大切です。逆に、二次対応チームに渡した案件は彼らに責任が移る形で運用するケースもありますが、その場合もユーザーとの調整が必要な場合は誰が行うのか、回答窓口はどちらなのかをはっきりさせることが望ましいでしょう。


5. 運用後のレビューと改善

5-1. エスカレーション事例の振り返り

エスカレーションが頻発する案件や、対応に時間がかかったケースは、定期的にレビューを行うと問題点が見えてきます。「この案件は最初から二次対応へ回すべきだったのではないか」「エスカレーション先のチームが不在だったために時間がかかった」などの事実から、ルールの見直しや改善点を抽出しましょう。

5-2. 問題管理との連携

エスカレーションされたインシデントは、往々にして複雑な原因や根深い問題をはらんでいます。問題管理プロセスと連携し、根本原因を分析して再発防止策を講じることで、同様のエスカレーションを減らすことが可能です。たとえば特定の部署だけで起きる障害が多いなら、ネットワーク機器の見直しやユーザー教育など、より上位の施策が必要かもしれません。

5-3. KPIと満足度の測定

エスカレーションの適切さを評価するために、いくつかのKPI(重要業績評価指標)を定めると役立ちます。たとえば、

  • エスカレーション率: 全問い合わせのうち、二次対応・三次対応に回った割合。
  • エスカレーション後の平均解決時間: エスカレーションが遅れると、この時間が伸びる傾向にある。
  • ユーザー満足度: エスカレーションの有無にかかわらず、最終的にユーザーが納得して問題解決できたか。

これらの数字を定期的にモニタリングして改善サイクルを回すと、組織としてエスカレーションルールを洗練させていけます。


まとめ

エスカレーションは、サービスデスクが「自分たちだけで解決できない問題」を抱えたときにこそ威力を発揮する仕組みです。明確なルールや優先度設定、情報伝達のテンプレートがあれば、二次・三次対応のチームと連携しやすくなり、ユーザーへの対応も遅れにくくなります。

一方、ルールが曖昧だと、たらい回しや情報不足による対応遅延が発生し、結果的にユーザーからの信頼を損ねる原因になります。ぜひ本記事を参考に、自社のエスカレーションフローを見直してみてください。次回の記事では、エスカレーションの基盤ともいえるSLA(サービスレベル合意)を再点検する方法や、実態に即した目標設定のやり方を解説します。そちらもあわせてご覧いただけると、より実践的な改善に役立つでしょう。

ユーザー視点で考える:問い合わせフローを改善しよう

はじめに

サービスデスクの業務設計を考えるうえで、しばしば見落とされがちなのが「ユーザー体験(UX)」という視点です。内部のプロセスを効率化することももちろん重要ですが、実際に問い合わせを行うユーザーがどう感じるかを無視しては、本当の意味でのサービス改善とは言えません。ユーザーは、自分の抱える課題がスムーズに解決することを望んでおり、そのプロセスが複雑だったり、時間がかかったり、何度も同じ内容を伝えなければならなかったりすると、強い不満を覚えます。

本記事では、「ユーザー視点」に立ってサービスデスクの問い合わせフローを最適化するための具体的なアプローチを紹介します。どんなに優れたツールや熟練のスタッフを揃えても、ユーザーが面倒な思いをしていたり、必要な情報にたどり着けない状態が続けば、満足度は上がりません。ぜひ、ユーザー目線でフローを再点検するヒントをつかんでください。


1. なぜユーザー視点が重要なのか

1-1. 組織イメージへの影響

サービスデスクは、ユーザーにとっての「IT部門の顔」であり、ひいては組織全体のイメージを左右する存在です。問い合わせへの対応が親切・的確かつ、フローがストレスフリーであれば、ユーザーは「ここに問い合わせれば安心」という印象を持ち、組織への信頼度が増します。逆に、たらい回しや長い待ち時間が常態化していると、組織全体の評価にも影響を及ぼしかねません。

1-2. 問題解決スピードと生産性

ユーザーが使いづらいフローになっている場合、問題解決までに余計なやりとりや確認作業が増え、結果としてサービスデスク側の工数もかさんでしまいます。例えば、必要事項の書き漏れや誤入力が頻発すると、スタッフが一つひとつ追跡調査をしなければならなくなります。ユーザー視点で「最初に入力すべき項目」や「ヒアリングの流れ」を明確化すれば、やりとりの回数が減り、対応スピードも上がるでしょう。

1-3. 顧客満足度の向上

企業の外部顧客向けのサービスデスクだけでなく、社内の従業員が利用するサービスデスクでも、利用者は「顧客」の一種です。利用者が満足し、ストレスなく仕事に専念できる状態を作ることは、生産性とエンゲージメント向上に直結します。ユーザー目線を大切にすることで、単なる「問い合わせ窓口」から「頼れる相談先」へイメージを変えられる可能性があります。


2. 現状の問い合わせフローを可視化する

2-1. ユーザージャーニーマップの作成

ユーザーが問い合わせを行う際、どのようなステップを踏むのかを「ジャーニーマップ」として可視化する方法があります。具体的には、

  1. トラブルや疑問が発生
  2. セルフサービスポータルやFAQの検索(またはすぐに電話やメール)
  3. 問い合わせ起票
  4. 担当者の割り当て
  5. 回答や解決策の提示
  6. 解決・クローズ

この一連の流れをユーザーがどう感じるか、「待ち時間」「作業量」「ストレスポイント」などを書き込んでいくと、どこでユーザーが不満を抱きやすいかを把握しやすくなります。

2-2. ペルソナ設定

ユーザーと一口に言っても、ITリテラシーの差や部署ごとのニーズはさまざまです。そこで「ITに詳しくない社員」「システム管理者」「新入社員」「在宅勤務が多いスタッフ」など、代表的なペルソナを設定し、それぞれの立場から問い合わせフローを評価してみるのも有効です。ペルソナが抱く課題やゴールを整理することで、どんな情報が不足しているか、どのステップが複雑すぎるかを発見しやすくなります。


3. ユーザー目線でフローを改善する方法

3-1. 情報入力の簡略化

問い合わせフォームに大量の入力項目を設けていないでしょうか。「部署名」「内線番号」「端末名」など、確かに必要な情報は多いかもしれませんが、必須入力を最小限に絞り、その他の情報はプルダウン選択や自動入力(ユーザー情報と連携)で補完できるようにすると、ユーザーの手間が減ります。入力が煩雑だと誤字や記入漏れが増え、結局スタッフ側も二度手間となるため注意が必要です。

3-2. セルフサービスポータルとの連携

前回の記事で述べたセルフサービスポータルがしっかり機能していれば、ユーザーが問い合わせを起票する前に、FAQやナレッジベースで自己解決を試みるよう誘導できます。フロー上、「問い合わせフォームにアクセスしたらまずFAQ関連の検索画面が提示される」という設計にすることで、簡単に解決できる問題についてはセルフサービスで完結し、スタッフの負担を減らせます。

3-3. 統一的な窓口とマルチチャネル対応

ユーザーが問い合わせ先に迷わないよう、基本的には「ここに連絡すれば大丈夫」という統一的な窓口を明示するのが理想です。ただし、電話やメール、チャットなど多様なチャネルを用意している場合は、どれを利用しても裏側で同じチケット管理システムに集約されるようにして、担当のばらつきを防ぐ必要があります。ユーザーが一度連絡した後に何度も別の窓口に案内されるのは、大きなストレス要因です。

3-4. 進捗状況の見える化

問い合わせを行ったユーザーは、「対応がどう進んでいるのか?」「いまどの段階なのか?」が分からず不安になりがちです。そのため、セルフサービスポータルやメール通知などを通じてチケットのステータスを適宜提示し、対応担当者や予定完了時期などを伝えられる仕組みを整えると、ユーザーの安心感が高まります。


4. ユーザーテストとフィードバックの収集

4-1. テストユーザーによるフロー検証

改善した問い合わせフローが本当にユーザーにとって使いやすいかどうかは、実際にユーザー(もしくはテストユーザー)に試してもらうのが一番確実です。フォームから起票してもらい、所要時間や操作性、わかりづらい箇所などをヒアリングし、必要に応じてフローを修正します。開発メンバーだけで判断していると、思わぬボトルネックを見落とす可能性があります。

4-2. 定期的なアンケート調査

問い合わせが完了したユーザーに対し、簡単な満足度アンケートを実施することで、生の声を収集できます。質問例としては、「対応の速さについての満足度(5段階)」「スタッフの対応態度についての感想」「問い合わせフローで改善してほしい点」などを挙げられます。特にフリーテキスト欄を設けておくと、思いがけない要望や不満が発掘できるかもしれません。

4-3. データ分析の活用

アンケートだけでなく、問い合わせ件数や平均対応時間、再オープン率などのデータをモニタリングし、フロー改善前後でどう変化したかを比較します。もし改善が期待ほど進んでいない場合は、さらに原因を深堀りして、どの部分でユーザーがつまずいているのかを調査しましょう。ユーザーがフォームで最初に離脱するポイントや、FAQに行ったあと直後に問い合わせを起票した場合などを分析すると、改善余地が見えてくることがあります。


5. 組織全体で取り組むユーザー志向

5-1. ユーザー対応方針の明文化

サービスデスク内だけでなく、組織のIT部門全体で「ユーザーの負担を最小化し、迅速に問題解決を支援する」という指針を共有することが重要です。これは単なるスローガンではなく、実際のマニュアルやプロセス定義にも反映させ、日々の業務判断の基準にします。たとえば、エスカレーション時には必ずユーザー情報を再入力させない、一度の問い合わせで担当チームを連携させる、といった具体的な行動指針を定めるのです。

5-2. 他部門との連携

ユーザーからの問い合わせ内容は、必ずしもIT部門だけで完結するものではありません。業務システムや人事・総務関連のシステムに絡む問題は、他部門との連携が必要です。そこで、部門間のエスカレーションフローをスムーズにし、ユーザーが複数部署に同じ説明を繰り返す手間を省く仕組みを整えましょう。組織全体で情報を共有できるようにすることで、問い合わせ窓口を一本化しつつ、裏側では適切に専門部門へ振り分ける形が理想です。

5-3. 継続的な改善文化

ユーザー視点でのフロー改善は、やって終わりではありません。定期的な見直しや新システム導入時のアップデートが必要です。また、問い合わせ内容やユーザー層は、時間の経過とともに変化します。サービスデスクスタッフが日々の業務から得た気づきを共有し、小さな修正を積み重ねることで、使いやすい問い合わせフローが継続的に育っていきます。


まとめ

問い合わせフローをユーザー視点で組み立てることは、サービスデスクの対応品質と利用者満足度を飛躍的に高める可能性を秘めています。スタッフ目線だけで最適化を図っても、結局ユーザーが「使いにくい」「わかりにくい」と感じれば本末転倒です。ユーザージャーニーマップの作成やペルソナ設定、フォームの簡略化、セルフサービスポータルの活用など、具体的な改善策はいくらでも存在します。

最も大切なのは、「ユーザーの課題を解決すること」がサービスデスクの存在意義である、という原点に立ち返ることです。今後もテクノロジーや働き方が変化し続ける中で、ユーザーの声を拾い、柔軟にフローを変えていく姿勢が求められます。次回以降の記事では、さらに細やかな手法や先進的な取り組み事例なども紹介していきますので、ぜひ引き続きご覧ください。

新人スタッフ育成プログラム:オンボーディングを成功させる方法

はじめに

ITサービスデスクの品質を高め、安定的に運営していくためには、スタッフ一人ひとりのスキルとモチベーションが不可欠です。しかし、多くの組織が直面する課題として、「新人スタッフの教育コストが高い」「スタッフが定着せず離職率が高い」という問題が挙げられます。せっかくのノウハウやスキルが引き継がれないまま人員が入れ替わってしまうと、サービスデスクの改善どころか日常の運用がままならない事態に陥ることもあります。

本記事では、サービスデスクにおける新人スタッフの「オンボーディング(組織に早期に馴染み、戦力化するためのプロセス)」を成功させるための具体的なプログラム例やマネジメントのコツを紹介します。現場の忙しさに追われるあまり計画的な育成が後回しになってしまいがちですが、しっかりとした教育体制を整えることが、結果的にはコスト削減や組織の活性化につながります。


1. 新人スタッフが直面する課題

1-1. 環境・ツールへの不慣れ

サービスデスクには、インシデント管理ツールやナレッジベース、チャットツールなど、さまざまなシステムを扱う必要があります。新人スタッフは、それらの操作方法や使いこなし方を一から学ぶ必要があり、最初は操作ミスや入力漏れが多発する可能性があります。

1-2. IT知識・スキルの不足

ユーザーの問い合わせ内容は多種多様で、基礎的なIT知識だけでも網羅しきれないケースが多いでしょう。新人スタッフがいきなり専門的なトラブルシューティングを求められると、戸惑うのは当然です。しかも、それをユーザーのわかりやすい言葉で説明するコミュニケーション力も必要とされます。

1-3. ストレスと離職リスク

問い合わせの現場は「待ったなし」の状況が多く、トラブル対応やクレーム対応に追われる日々が続きます。新人スタッフにとっては精神的なプレッシャーが大きく、サポート体制が不十分だと早期離職につながりやすくなります。メンタルケアやフォローアップが十分でなければ、せっかく採用した人材が短期間で辞めてしまうリスクが高まります。


2. オンボーディングプログラムを設計する

2-1. 目標と期間を明確化

まずは、新人スタッフに対して「どの程度の期間で、どんなスキルレベルに達してほしいか」を明確に定義します。たとえば以下のような目標設定を行うのも一案です。

  • 入社1か月目: 基本的なツール操作とFAQ参照方法を習得し、簡単な問い合わせの一次対応ができる。
  • 入社3か月目: 主要な問い合わせカテゴリの対応を一通り経験し、チャットや電話でのコミュニケーションに慣れる。
  • 入社6か月目: 複雑なインシデント対応やベンダーへのエスカレーション手順を理解し、ある程度自律的に案件を進められる。

曖昧な目標設定よりも、期間と成果物や期待する行動基準を具体的に示すほうが、本人も上司・先輩も進捗を把握しやすくなります。

2-2. カリキュラムと研修内容

オンボーディングカリキュラムとして、座学と実践、メンタリングを組み合わせたプログラムを設計すると効果的です。例を挙げると:

  1. 座学研修(基礎知識習得)
    • ITサービスデスクの役割・基本用語の解説
    • インシデント管理プロセス(ITILベースなど)
    • 主なシステム・ツールの操作方法
  2. OJT(On-the-Job Training)
    • 先輩スタッフの隣で対応を見学(シャドーイング)
    • FAQ・ナレッジベースを使いながら簡単な問い合わせ対応を実践
    • 先輩がフォローしつつ、徐々に担当案件を増やしていく
  3. 定期的なフォローアップセッション
    • 週次・月次などで進捗を確認し、疑問点や不安を共有
    • 対応した案件の振り返りやフィードバック

このように段階的なステップを踏むことで、忙しい現場の中でも計画的な成長が見込めます。

2-3. メンター・バディ制度

新人スタッフに専属のメンター(またはバディ)を付けて、日常的な質問や業務上の疑問を気軽に相談できる環境を整える方法は多くの企業で採用されています。メンターは単なる業務説明役ではなく、精神的なサポートやキャリア形成のアドバイスなども行い、新人が組織にスムーズに溶け込めるようフォローします。ポイントは「相性」や「サポートにかけられる時間」を考慮してメンターを指名することです。


3. 効果的な研修・教育ツールの活用

3-1. Eラーニングとオンライン教材

業務スケジュールの合間に知識を身につけられる手段として、Eラーニングの活用が挙げられます。短時間で一章ずつ学べる教材や、クイズ形式で知識定着を図るコンテンツがあれば、新人スタッフは自分のペースで学習できます。動画や図解など視覚的な要素を取り入れることで理解が深まり、スタッフが復習しやすいのもメリットです。

3-2. シミュレーションとロールプレイ

カスタマー対応系の研修ではロールプレイが非常に有効です。想定質問やクレーム対応のケースを準備し、新人スタッフが「ユーザー役」と「対応役」に分かれて練習します。ロールプレイを通じて、コミュニケーションの仕方やFAQの参照スピード、相手の気持ちへの配慮など、多角的なスキルを確認しフィードバックが行えます。

3-3. ナレッジベースの活用推進

新人スタッフほど、FAQやナレッジベースの存在を知らない、あるいは活用方法を十分に理解していないケースが多いです。そこで、研修の一環として「ナレッジベースでの検索方法」「記事の更新・投稿のやり方」などを説明し、日々の対応ですぐ活用できるようにしておくとよいでしょう。また、新人の視点で「分かりにくい記事」や「不足している情報」があれば、改善提案をしてもらう機会を設けると、ナレッジベース全体の品質向上にもつながります。


4. フィードバックと成長支援

4-1. 定期的な振り返りの場を設定する

新人スタッフは「自分がどのくらいできているのか」「どんなところが評価され、どんなところを改善すべきか」を知りたいものです。特に最初の3か月〜6か月は、先輩や上司との1対1ミーティングを定期的に行い、具体的な事例をもとにフィードバックを提供するのがおすすめです。たとえば「今回のユーザー対応はこういう点が良かった」「今後は対応スピードにもう少し気を配ろう」といった形で、明確な改善指針を示すと新人も成長を実感しやすくなります。

4-2. 評価制度との連動

組織としてオンボーディングを重視するのであれば、人事評価制度やKPI設定にも新人の育成要素を組み込むと良いでしょう。メンターとして新人を指導した先輩スタッフの評価に「新人の定着率」や「新人の習得度」を含める企業もあります。こうした仕組みがあると先輩も育成に本腰を入れやすくなり、新人にも明確な目標が与えられます。

4-3. メンタルヘルスケアと相談窓口

問い合わせ対応は、ときにユーザーから厳しい言葉を浴びせられたり、繰り返し同じ問題を抱え込んだりするため、新人スタッフが精神的に疲弊する要因となり得ます。そこで、社内に相談窓口(人事部やEAP:従業員支援プログラム)を設置し、いつでも気軽に相談できる体制を整えておくことが重要です。管理職や先輩が小まめに声がけをして、新人のメンタル状況を把握する努力も求められます。


5. チーム全体で新人を支える組織文化

5-1. 情報共有とナレッジマネジメント

新人スタッフだけでなく、チーム全体で情報やノウハウをシェアする文化が根付いていれば、個々の負担も減り、抜け漏れやダブルワークが防止できます。定期的に行うチームミーティングで「最近よくある問い合わせ事例」を発表し合ったり、社内掲示板やチャットツールを使って気軽に質問できる風土を作ったりすると、新人スタッフが疑問を一人で抱え込みにくくなります。

5-2. 失敗を許容する環境づくり

新人が早く業務に慣れようとする一方で、ミスを恐れて萎縮してしまうケースも少なくありません。組織としては、失敗やトラブル対応をいかに学びにつなげるかが大切です。ミスが発生したときに責任追及ばかりするのではなく、「どうすれば防げたか」「再発防止策は何か」を建設的に話し合う姿勢を示すことで、新人のチャレンジ精神やモチベーションを維持できます。

5-3. 小さな成功体験の積み重ね

新人スタッフが自信を持って業務に取り組むには、段階的な成功体験が欠かせません。たとえば「初めて一人で完了まで対応できた案件」「ユーザーからお礼の言葉をもらえた案件」など、小さな達成を見逃さずに評価し、チームで讃える風土があれば、本人も「もっと頑張ろう」という気持ちになりやすいです。


まとめ

新人スタッフのオンボーディングに力を注ぐことは、サービスデスクの将来を左右する重大な要素です。現場が忙しいと「教えるより自分でやったほうが早い」という心理が働きがちですが、それではいつまでたっても新人が育たず、慢性的な人手不足や負担増につながります。計画的な育成プログラムと先輩・上司によるフォローアップ体制、そして失敗を責めずに学びを共有する組織文化があれば、新人スタッフは早期に戦力となり、離職リスクを下げることができます。

次回の記事では、「ユーザー視点で考える問い合わせフロー改善」をテーマに、サービスデスクがどのようにユーザーの立場に立ってプロセスを組み立てるかを詳説していきます。新人スタッフが増えるタイミングや新しい業務が始まる時期こそ、フローを見直すチャンスかもしれません。ぜひ続けてご覧ください。

問い合わせ分類の自動化:キーワード分析とツール選定のコツ

はじめに

ITサービスデスクに寄せられる問い合わせ件数が多いほど、スタッフは「内容の分類・振り分け」に大きな負担を強いられます。受付時点で「この問い合わせは誰に回すべきか?」「どのカテゴリに属するのか?」と都度判断を迫られ、その作業が重複すると、対応スピードの低下だけでなくミスが発生するリスクも高まります。そこで注目されているのが、AIや機械学習などを活用した「問い合わせ分類の自動化」です。

本記事では、問い合わせ内容を自動的に振り分けるためのキーワード分析や、適切なツールを選定する際のポイントを解説します。自動化の導入がうまく進むと、サービスデスクの業務効率が格段に向上するだけでなく、ユーザーへの一次回答のスピードアップにも繋がるため、組織全体の生産性アップが期待できるでしょう。


1. 問い合わせ分類の重要性

1-1. 分類がもたらすメリット

問い合わせを正しくカテゴリ分け・優先度設定できれば、以下のようなメリットがあります。

  • 的確な担当者・チームへのエスカレーション
    ユーザーの待ち時間を減らし、二重三重の手戻りを防ぐ。
  • レポーティング精度の向上
    問い合わせが「どの領域にどの程度発生しているか」を正確に把握し、対策を立てられる。
  • ナレッジの集約・参照が効率化
    同種の問い合わせがどれくらいあるのかが分かるため、FAQやマニュアル整備の優先度を付けやすい。

しかし、大量の問い合わせを人力で分類し続けるには限界があり、分類基準のブレや担当者間の違いも生じがちです。そこで自動化のニーズが高まっています。

1-2. 自動化の流れと手法

一般的な自動分類の流れは、以下のようなステップで進みます。

  1. 問い合わせ内容のテキスト解析
    タイトルや本文からキーワードやフレーズを抽出。
  2. 分類ルール・モデルの適用
    あらかじめ定義したルールや機械学習モデルを用いて、問い合わせを特定のカテゴリへ振り分ける。
  3. 優先度や担当チームの自動アサイン
    分類結果に応じて、高・中・低の優先度や担当グループを設定。
  4. スタッフやシステムで最終チェック
    自動化モデルの精度を検証し、必要に応じて修正。

2. キーワード分析によるルールベース分類

2-1. ルールベース分類の特徴

AIを導入するほどの予算や専門知識がない場合でも、まずはキーワード分析を活用したルールベースの自動分類を試してみることが可能です。例えば「VPN」「リモート接続」などの単語が含まれていれば「ネットワーク関連」、また「サーバー」「データベース」といった用語があれば「インフラ関連」というように分ける方式です。

  • メリット: 実装コストが低く、わかりやすいロジックで運用しやすい。
  • デメリット: ルールが増えすぎると管理が複雑化し、曖昧な問い合わせ文や新しい用語には対応しきれない。

2-2. ルール設計のコツ

ルールベース分類を行う際は、あらかじめ「どんなカテゴリをいくつに分けるか」を明確化したうえで、代表的なキーワードやシノニム(同義語)を整理しておきます。たとえば「アカウントロック」「パスワード忘れ」などは「アカウント管理」カテゴリへ振り分ける…といった具合です。問い合わせ履歴をテキストマイニングし、頻出単語を洗い出しておくと抜け漏れを防ぎやすくなります。


3. 機械学習モデルを活用する方法

3-1. テキスト分類モデルの概要

より高度なアプローチとして、機械学習や自然言語処理(NLP)を活用する方法があります。具体的には、「過去の問い合わせ文」と「それが最終的に分類されたカテゴリ」を学習データとして機械学習モデルを作り、新たな問い合わせが来た際に自動的に予測させる形です。ルールベースと比べると、曖昧な記述や新たな表現にも適応しやすくなるメリットがあります。

3-2. モデル構築の流れ

機械学習での自動分類には以下の工程が必要です。

  1. データ収集・前処理
    過去の問い合わせデータを大量に集め、カテゴリのラベル付けを行う。文中の不要語(ストップワード)削除や形態素解析などでテキストを整形。
  2. 特徴量抽出
    Bag-of-Words、TF-IDF、ワードエンベディング(Word2VecやBERTなど)を用いてテキストを数値ベクトル化。
  3. モデルの学習と評価
    ロジスティック回帰やランダムフォレスト、ディープラーニングなどのアルゴリズムを試し、精度が高いモデルを選択。
  4. 運用と継続的なチューニング
    新しい問い合わせが来るたびにモデルを評価し、必要に応じて再学習やパラメータ調整を行う。

3-3. 注意点

機械学習モデルは、「学習データの量と質」に大きく依存します。ラベル付け(正解データ付与)が不十分だったり、カテゴリの定義が曖昧だったりすると、モデルの精度は期待ほど上がりません。導入初期はある程度誤分類が出ることを前提とし、スタッフによるフィードバックを取り入れて段階的に精度を向上させるアプローチが現実的です。


4. ツール選定のポイント

4-1. 問い合わせ管理システム(チケット管理ツール)

多くのクラウド型チケット管理システム(Zendesk, Freshdesk, ServiceNow, Jira Service Managementなど)には、キーワード分析やAIベースの自動分類機能が備わっている場合があります。自社でゼロからシステムを開発するよりも、こういった既製品を活用するのが一般的です。選定においては以下の点を確認しましょう。

  • 自動分類機能の有無と精度
    試験的にデモやPoC(概念実証)を行い、どれほど適切に分類されるかを検証。
  • 既存システムとの連携
    社内認証基盤やナレッジベース、メールサーバーとのスムーズな連携ができるか。
  • ライセンス費用とサポート体制
    ユーザー数や問い合わせ件数に応じた料金がどのくらいになるか、ベンダーのサポートは十分か。

4-2. 自社開発やオープンソースの活用

既製品の機能が合わない場合や、機械学習を大規模にカスタマイズしたい場合は、自社開発やオープンソースソリューションの活用も検討できます。例えばスクリプト言語(Pythonなど)とオープンソースライブラリ(scikit-learn, TensorFlow, PyTorchなど)を使えば、多様なテキスト分類モデルを構築可能です。ただし、導入・運用コストが大きくなる傾向があるため、エンジニアリソースやメンテナンス体制を十分に確保できるかがポイントです。


5. 自動化導入後の運用設計

5-1. 精度向上のための継続的フィードバック

どれほど性能の良いモデルを導入しても、問い合わせ内容の傾向は日々変化します。新しいサービスのリリースやシステムアップデートがあるたびに、新種の問い合わせが増えることも珍しくありません。そうした変化に対応するためには、スタッフが誤分類に気づいたら正しいカテゴリを再割り当てし、その情報を学習データに反映させる仕組みが必要です。

5-2. ヒューマンタッチとの連携

自動分類はあくまでスタッフの負担を減らすための仕組みであり、最終判断や複雑なケース対応は人間の介在が必要になることも多いでしょう。特に機密性の高い問い合わせや、感情的にこじれそうなクレーム対応など、人の対応が不可欠な場合もあります。自動化によって浮いた時間を、スタッフがコア業務に割けるように設計するのが望ましい形です。

5-3. KPI管理とレポート

自動分類機能を導入したら、分類精度や対応スピードの変化を定期的に測定し、レポート化することで投資対効果を可視化することが重要です。具体的には「一次分類の正答率(自動振り分けが正しかった割合)」「問い合わせ対応における平均リードタイムの変化」「エスカレーション回数の推移」などをトラッキングし、目標値に向けて改善サイクルを回しましょう。


まとめ

問い合わせ分類の自動化は、ITサービスデスクにおける生産性を大きく左右する重要テーマです。ルールベースのキーワード分析からスタートして段階的に導入していく方法もあれば、機械学習やAIを積極的に活用して高度な自動振り分けを実現する方法もあります。自社の規模感やITリソース、問い合わせの特徴を踏まえ、最適なアプローチを検討してみてください。

いずれの方法を選ぶにしても、導入したら終わりではなく、運用の中で精度を高め続ける取り組みが欠かせません。スタッフによる最終チェックとフィードバックループを設計し、自動化が実際の業務効率やユーザー満足度向上にどの程度寄与しているかを測定することも大切です。

次回の記事では「新人スタッフ育成プログラム」をテーマに、サービスデスクに新たに加わるメンバーをどうオンボーディングし、早期に戦力化するかというポイントを解説します。人材不足や教育コストの課題を抱えるサービスデスクでお悩みの方は、ぜひご覧ください。

セルフサービスポータル導入のメリットと設計ポイント

はじめに

前回の記事では、FAQやナレッジベースの整備による問い合わせ削減の効果と、そのための運用上のポイントについて解説しました。今回は、その取り組みをさらに一歩進め、「セルフサービスポータル」を導入するメリットと具体的な設計ポイントを掘り下げていきます。

多くの問い合わせが「ユーザーが自力で解決できそうな内容」である場合、セルフサービスポータル(Self-Service Portal)の整備は非常に効果的です。ユーザーがポータルにアクセスすると、自らの状況に合った情報を検索できたり、トラブルシューティング手順に沿って問題解決を試みたり、FAQ・ナレッジベースと連動したチャットボットに質問したりといった、セルフヘルプが可能になります。ここでのポイントは、いかに“わかりやすさ”と“使いやすさ”を両立させるか。そのためのヒントを具体例とともに紹介していきます。


1. セルフサービスポータルとは何か

1-1. セルフサービスポータルの基本概念

セルフサービスポータルとは、その名の通りユーザーが「自己解決を試みるための窓口」となるWebサイトやアプリケーションの総称です。企業や組織によって形態はさまざまですが、多くの場合次のような機能が含まれています。

  • FAQ・ナレッジベースへのアクセス
    カテゴリや検索ボックスから情報を探せる。
  • チャットボットや自動応答システムとの連携
    ユーザーが入力したキーワードに応じて関連FAQを提示する。
  • チケット発行フォーム
    セルフヘルプで解決しなかった場合に、そのまま問い合わせを起票できる。

ユーザーの利便性を高めると同時に、サービスデスクの負荷を下げる効果が期待できます。

1-2. セルフサービスの普及背景

近年、SaaSやクラウドサービスの普及に伴い、社内IT環境は多様化・複雑化が進んでいます。その一方で、利用者側は「24時間365日いつでも手軽に問題解決したい」というニーズが強まっています。セルフサービスポータルは、こうしたニーズに応えるかたちで進化し、多くの企業が導入を検討する有力な手段となっています。


2. セルフサービスポータル導入のメリット

2-1. 問い合わせ件数の削減

ユーザーが自分で解決策を見つけられると、サービスデスクへの問い合わせ件数が減少します。特に「パスワードリセット」「アカウントロック解除」「ソフトウェアのインストール手順」といった定型的な質問はセルフヘルプに向いています。この分、サービスデスクはより高度なトラブルシューティングや、ユーザーとのコミュニケーションが必要な案件に集中できるようになります。

2-2. 利用者の満足度向上

「ちょっとしたトラブル」を解決するためにわざわざ電話やメールで問い合わせを行うより、セルフサービスポータルで必要な情報をすぐに見つけられるほうが、ユーザー体験としては格段にスムーズです。待ち時間も減るため、ストレスを軽減できます。また、夜間や休日など、サービスデスクの稼働時間外でも自己解決を試みられる点も、大きなメリットとなります。

2-3. サービスデスク運営コストの最適化

問い合わせが減れば、それに伴い対応コストも下がります。これは人件費だけでなく、問い合わせ管理ツールのライセンス費用などにも影響を及ぼす可能性があります。さらに、セルフサービスポータルの利用が進むことで問い合わせデータの蓄積や可視化が進み、改善のサイクルを回すうえでの基盤が整備される効果も期待できます。


3. セルフサービスポータル設計のポイント

3-1. ユーザビリティを最優先に考える

セルフサービスポータルは「ユーザーが自分で情報を探す」ことを前提としています。そのため、ポータル自体が分かりづらかったり、検索性が低かったりすると、逆にユーザーの不満が溜まってしまいます。たとえば以下の点は特に注意が必要です。

  • トップ画面の構成
    カテゴリの分かりやすいアイコン配置、検索ボックスの見やすさなど。
  • 検索機能の精度
    ユーザーがよく使うキーワードでヒットするかどうか。
  • UIのレスポンシブ対応
    スマートフォンやタブレットからのアクセスも想定する場合、画面レイアウトを調整しておく。

3-2. ナレッジベースとのシームレスな連携

前回までの記事で触れたFAQやナレッジベースを、セルフサービスポータルでスムーズに参照できるようにすることが鍵です。検索結果に直接FAQや関連ドキュメントへのリンクが表示される、FAQを見ている途中で問い合わせフォームを開けるなど、ユーザーが「行き来しやすい」設計を意識しましょう。

3-3. チャットボットの活用

近年ではAIを活用したチャットボットを導入し、キーワードや自然言語処理を用いて最適な回答を返す仕組みを取り入れる企業も増えています。ユーザーが「パソコンがフリーズした」と打ち込むと、チャットボットがFAQから該当項目を提示する、といった流れです。導入コストや運用負荷はかかりますが、頻出問い合わせを効率的にセルフサービスへ誘導できると、大きな効果が見込めます。

3-4. 問い合わせ起票との統合

セルフヘルプを試みても解決しなかったユーザーが、そのままシームレスに問い合わせを起票できる機能も重要です。起票フォームでは、すでに選択したFAQの情報やエラーメッセージなどが自動入力されるようにすると、ユーザーの手間が減るだけでなく、サービスデスク側での初期対応もスピードアップできます。


4. 導入・運用を成功させるためのステップ

4-1. パイロット運用とフィードバック収集

一度に全社展開するのではなく、限定された部署やユーザーグループでパイロット運用を行い、実際の使い勝手を検証するのがおすすめです。導入初期には不具合やUI上の不備、FAQの不足などが見つかりやすいので、早期に改修しながらクオリティを高めるアプローチを取りましょう。また、パイロットユーザーから直接フィードバックをもらい、それを改善サイクルに反映する仕組みを設けるとスムーズです。

4-2. 周知・教育とインセンティブ

「セルフサービスポータルがある」ということを利用者に広く周知し、実際に使ってもらうための施策が必要です。新入社員や新システム導入時の説明資料にポータルの利用方法を載せる、サービスデスクの回答メールにポータルのURLを貼っておく、などの地道な取り組みが重要です。また、サービスデスクに電話した場合よりも、ポータル利用のほうが処理が早い、あるいはポイントが貯まる(社内制度によるインセンティブ)などの仕組みを作ると、ユーザーが自然とセルフヘルプに向かうようになるかもしれません。

4-3. コンテンツの継続的アップデート

セルフサービスポータルは「作って終わり」ではなく、運用の中で常に改善を続ける必要があります。ITシステムや社内ルールの変更に合わせて新しいFAQを追加したり、既存記事を更新したり、検索キーワードのトレンドを分析して人気の高い質問をトップに表示するなど、常に最適な状態を保つことを心がけましょう。ポータル内に「このFAQは役に立ちましたか?」といった評価機能を設置すると、ユーザーのリアルな声を迅速に拾えるため便利です。

4-4. 統計データの分析

セルフサービスポータルを導入すると、ユーザーがどのFAQを閲覧したか、どんな検索キーワードを使ったかなど、多くのログが蓄積されます。これらのログを分析することで、「問い合わせが多いトピック」や「満足度が低いコンテンツ」などを把握しやすくなります。特に、ポータル内で検索したあと結局問い合わせを起票したユーザーが多いキーワードは、「FAQやマニュアルが不十分」「情報の見つけにくさ」などの課題がある可能性を示唆していると考えられます。


5. 注意点とリスク管理

5-1. セキュリティとアクセス制御

セルフサービスポータルが外部ネットワークからアクセスできる形態の場合、情報漏洩リスクや不正アクセスのリスクに注意が必要です。組織のセキュリティポリシーに沿った認証方式や通信暗号化、必要に応じたアクセス制御を導入し、利用者が安心して利用できる環境を整えましょう。

5-2. 過度の自動化が招くユーザー不満

チャットボットや自動応答が高度化する一方、問い合わせ内容によっては人間のスタッフと直接話をしたいユーザーもいます。自動対応を優先しすぎると、複雑な問題や緊急度の高いインシデントが埋もれてしまうリスクもあるため、セルフサービスポータルがあくまで選択肢の一つであることを意識し、バランスを取ることが大切です。

5-3. 維持管理コスト

セルフサービスポータルを立ち上げるだけでなく、継続的に情報を最新に保ち、機能をアップデートし、ユーザーへの周知活動を続ける必要があります。担当者の工数やコストを見込んでいないと、導入後に「結局ポータルが放置されて形骸化してしまう」結果になりかねません。ロードマップと責任者を明確化し、必要なリソースを確保する計画が不可欠です。


まとめ

セルフサービスポータルは、ユーザーの自己解決を促進し、サービスデスクの対応負荷を削減するうえで大きな効果が期待できる仕組みです。しかし、その導入と運用には、UI設計から周知活動、コンテンツ管理、セキュリティ対策など多角的な取り組みが求められます。何より重要なのは、「ユーザーが実際に使ってくれる」ポータルを作り上げること。単なるFAQの寄せ集めや形だけのチャットボットではなく、ユーザー視点に立った設計と、運用チームの熱意ある取り組みが成功を左右します。

次回は、セルフサービスをさらに推進するうえで重要となる「問い合わせ分類の自動化」について解説し、キーワード分析やツール選定のポイントをお伝えします。ぜひあわせてご覧ください。

FAQ強化で問い合わせを削減:ナレッジベース活用のヒント

はじめに

サービスデスクが抱える大きな課題の一つは、対応件数の多さからくる「慢性的な業務過多」です。大量の問い合わせに追われ、スタッフが疲弊し、結果的に対応品質の低下を招くことも少なくありません。こうした状況を緩和する有効な手段の一つが「FAQ(Frequently Asked Questions)の強化」と「ナレッジベース(知識データベース)の活用」です。

多くの企業や組織で、FAQやナレッジベースの存在自体は認知されているものの、十分に活用されていないケースが目立ちます。「ページが分かりづらい」「情報が古い」「更新が滞っている」などの理由で、ユーザーは結局サービスデスクに直接問い合わせせざるを得なくなります。本記事では、FAQやナレッジベースの整備を通じて問い合わせ数を削減し、サービスデスクのリソースをより有効に使うための実践的なヒントを紹介します。


1. なぜFAQとナレッジベースが必要なのか

1-1. 問い合わせをセルフサービス化する

ユーザーが簡単に情報を検索し、自己解決できる仕組みを作ることで、サービスデスクに寄せられる単純な問い合わせを減らすことが可能です。特に「パスワードをリセットしたい」「アカウントロックを解除したい」「特定のソフトウェアをインストールする方法を知りたい」といった定型的な問い合わせは、FAQやナレッジベースにきちんとまとめておくことで、大幅に削減できます。

1-2. スタッフの対応品質と効率を向上

FAQやナレッジベースを整備すれば、スタッフもそこから回答内容を参照・コピペするなどして、短時間で正確な回答を提供できます。また、新人スタッフが多いチームや、交代制で運用しているサービスデスクにおいては、情報が集約されていることで対応のばらつきを抑える効果も期待できます。


2. FAQ強化のポイント

2-1. ユーザー視点の設問作り

FAQを作成する際、よくある落とし穴として「運用側の専門用語で書かれている」「社内的な略語や表現を使ってしまう」といったケースがあります。ユーザーが実際に検索しそうなキーワードや質問文を想定し、「○○ができないのですが、どうすればいいですか?」といった形で項目を用意すると、ユーザーが探したい情報に早くたどり着きやすくなります。

2-2. トピックをカテゴリ分けする

FAQが多岐にわたる場合、カテゴリやタグをしっかり設計して整理することが重要です。例としては「アカウント関連」「ネットワーク関連」「ソフトウェア関連」「ハードウェア関連」などのカテゴリに分けておくと、ユーザーは自分が抱える問題の種類に応じて探しやすくなります。あまり細分化しすぎると逆に探しづらくなるので、バランスを考えて設定すると良いでしょう。

2-3. 定期的な内容の見直しと更新

IT環境や社内ルール、利用しているシステムは時間とともに変化します。その変化に合わせてFAQの内容を更新しないと、古い情報が放置されてユーザーが混乱する原因になります。更新作業を怠ると、せっかく作ったFAQが逆効果になりかねないので、定期的なメンテナンスは必須です。更新担当者を決めて、リリースノートや社内ルール変更のタイミングで連動してFAQを修正する仕組みを作ると良いでしょう。


3. ナレッジベース活用のヒント

3-1. ナレッジマネジメントツールの導入

大規模な組織や、多数のシステムを扱うサービスデスクでは、FAQだけではカバーしきれない詳細情報を管理するために「ナレッジマネジメントツール」の活用が有効です。ConfluenceやServiceNow、Salesforce Knowledgeなど、さまざまな製品が市販されています。これらのツールでは、記事のバージョン管理や承認ワークフロー、アクセス権の設定などができるため、組織全体で効率的にナレッジを共有できます。

3-2. スタッフ同士の情報共有促進

ナレッジベースを作っても、スタッフが「面倒くさい」「自分だけ分かっていればいい」と思っていては宝の持ち腐れです。新しいインシデントに遭遇したり、有用な解決策を見つけたりしたら、すぐに情報をナレッジベースに登録する文化を醸成する必要があります。そのために、登録者にポイントを付与する仕組みを作ったり、定期的にナレッジ共有会を開いたりしてモチベーションを高める工夫が考えられます。

3-3. 検索性とタグ付けの最適化

ナレッジベースに記事数が増えると、ユーザーもスタッフも「どこに何が書いてあるか分からない」という状態に陥りやすくなります。対策として、記事にタグやメタ情報を付与し、検索機能を活用することが重要です。また、ユーザービリティの高いインデックスページを作ったり、検索結果を絞り込むためのフィルタを設定したりするなど、使い勝手を常に改善していく姿勢が求められます。


4. 問い合わせ削減のための周知と仕組み

4-1. FAQ・ナレッジベースの利用促進

せっかくFAQやナレッジベースを整備しても、ユーザーが存在を知らなければ意味がありません。新入社員向けのオリエンテーションや社内ポータルサイトへの案内、定期的なメール通知などを通じて、積極的に周知を図りましょう。また、サービスデスクに問い合わせが来た際に「この内容はFAQにありますので、こちらをご参照ください」と案内することで、次回からはユーザー自ら調べてくれる可能性が高まります。

4-2. セルフサービスポータルの構築

FAQやナレッジベースをユーザーがシームレスに利用できるセルフサービスポータルを整備することで、問い合わせを起票する前にユーザーが自己解決を試みる仕組みが作れます。一定の条件を満たせば自動的にナレッジベースの記事が表示されるようにする、あるいはチャットボットを導入して関連する記事を提案するといった高度な取り組みも可能です。

4-3. ユーザーアンケートの活用

FAQやナレッジベースを利用したユーザーに対して、簡単なアンケート(「この情報は役に立ちましたか?」)を行い、フィードバックを集めると改善の糸口が見つかりやすくなります。もし「わかりにくい」「もう少し図解がほしい」といった声が多い場合は、その部分を補強するなど、データに基づいたアップデートを継続的に行うことが重要です。


5. FAQ・ナレッジベース運用のベストプラクティス

  1. 小さく始めて定期更新
    いきなり完璧を目指そうとするとハードルが高くなりがちです。まずは頻出問い合わせから対応するなど、優先度の高い項目に集中し、定期的な更新を重ねて質と量を拡充していく方法がおすすめです。
  2. 継続的なレビュー体制を構築
    古い情報や重複情報が溜まってしまうとユーザー体験が悪化します。定期的に記事をレビューし、不要な情報を削除したり、最新の状況に合わせて修正したりするプロセスを回しましょう。
  3. スタッフの協力を得やすい仕組みづくり
    FAQやナレッジベースの更新作業は、スタッフ全員が協力する必要があります。評価制度の一部にナレッジ貢献度を組み込む、データ登録を極力簡単にするUIを採用するなど、スタッフの手間を減らすとともにモチベーションを上げる工夫を検討しましょう。
  4. 多様な形式のコンテンツを活用
    文章だけでは分かりにくい内容はスクリーンショットや動画、図解を活用し、視覚的に訴求すると理解が深まりやすくなります。特に初心者ユーザーや非IT部門の社員に向けては、専門用語を避け、イラストや写真を多用するなどの工夫が効果的です。

まとめ

FAQやナレッジベースの強化は、サービスデスクの問い合わせを削減し、スタッフがより高度な対応に専念できるようにするための強力な手段です。しかし、単に情報を並べただけではユーザーに利用してもらえず、十分な効果を発揮できません。ユーザー目線に立ったわかりやすい設計、定期的な見直し、そして全社的な周知が成功のカギとなります。

次回の記事では、セルフサービスを推進するための具体的な仕組みづくりや、問い合わせを「発生させない」工夫について、より踏み込んだ視点から掘り下げていきます。自社のサービスデスクが膨大な問い合わせに追われていると感じる方は、ぜひFAQとナレッジベースの運用を再検討してみてください。

インシデント管理の見直し:プロセスを最適化する3つのステップ

はじめに

ITサービスデスクの中核業務の一つが「インシデント管理」です。システム障害やユーザーの操作トラブルなど、発生した問題(インシデント)を受け付け、原因を特定し、再発防止策を検討するまでの一連のプロセスがスムーズに回るかどうかが、サービスデスクの品質を大きく左右します。しかし、インシデントの対応に追われるばかりで、根本的な改善に時間を割けていないケースも多いのではないでしょうか。

本記事では、インシデント管理を見直すうえで重要な3つのステップを提示します。これらのステップをしっかり押さえることで、日々のトラブル対応にかかる時間を削減するとともに、再発防止やサービス品質の向上へと繋げられるはずです。


1. インシデント管理とは何か

1-1. インシデントの定義

ITIL(IT Infrastructure Library)などのガイドラインでは、インシデントを「サービスの中断、またはサービス品質の低下を引き起こす事象」と定義しています。システムダウンやネットワーク障害のような大規模なものだけでなく、ユーザーがパスワードを忘れてログインできないといった一見ささやかな問題も含まれます。これらの事象をサービスデスクが一元的に受付・管理し、最終的に解決に導くのがインシデント管理プロセスの役割です。

1-2. インシデント管理と問題管理の違い

よく混同されがちですが、インシデント管理は「発生している事象を素早く正常な状態へ復旧させる」ことが目的です。一方、問題管理は「インシデントの根本原因を究明し、再発防止策を打つ」ことが目的です。サービスデスクの活動ではインシデント管理が中心になりますが、問題管理と連携することでより高いレベルの改善が期待できます。


2. ステップ1:受付と分類の最適化

2-1. インシデント受付の一本化

まず取り組むべきは、インシデントの受付窓口を整理し、どのチャンネル(電話、メール、ポータルなど)からでも最終的には同じ仕組みに集約されるようにすることです。問い合わせが複数の場所に分散していると、対応漏れや重複対応が発生しやすくなります。可能であれば、チケット管理システムを用いて一元管理するのが理想です。

2-2. 分類基準の見直し

インシデントを「問い合わせカテゴリ」「優先度」「影響範囲」などの観点で分類し、重要度や緊急度に応じて対応を振り分けられる仕組みを作ります。例えば「高:システム全体に影響」「中:特定部署やチームに影響」「低:個人のPCトラブル」などの区分けはよく使われます。分類基準が曖昧だとスタッフ間で認識がズレたり、エスカレーションのタイミングを誤ったりする可能性があるため、細かくルールを定義することが大切です。

2-3. ユーザーからの情報収集

受付時点で必要な情報をしっかりヒアリング・記録しておくと、後続の対応がスムーズになります。例としては「発生している現象の詳細」「利用中のシステムやバージョン」「エラーメッセージ」など。電話であれば聞き取り、メールやポータルであればユーザーフォームに必須項目を設定することで、対応に必要な最低限の情報を確保できます。


3. ステップ2:対応とエスカレーションの明確化

3-1. 対応プロセスの可視化

インシデントが受付されてから解決に至るまでの流れをフローチャートで表し、スタッフ全員で共有しておきます。たとえば下記のようなイメージです。

  1. インシデント受付
  2. カテゴリと優先度の設定
  3. 一次対応スタッフによる初期調査
  4. 必要に応じてエスカレーション先に連絡
  5. 解決策の提示、ユーザーからの承認
  6. チケットクローズ

この一連のプロセスを、どのような条件で誰が対応するのかを明確に定義しておくと、迷いや対応遅れを防ぎやすくなります。

3-2. エスカレーションルートの整備

一次対応で解決できないインシデントは、専門チームやベンダーサポートなどへエスカレーションが必要になります。このとき、どのようなインシデントを誰に引き継ぐのか、連絡手段は何か、どのタイミングでユーザーへ報告するのか、といったルートと手順をはっきり決めておくことが重要です。エスカレーション先の窓口担当や営業時間が曖昧だと、対応が大幅に遅れる要因になります。

3-3. 対応記録の充実

一度対応したインシデントについて、その解決方法を簡潔かつ分かりやすく記録に残すことで、次回同様のインシデントが起きた際の対応速度が格段に向上します。ナレッジベースやFAQに転記できる内容は積極的に共有し、スタッフ間のスキル格差を埋める工夫も大切です。


4. ステップ3:効果測定と継続的改善

4-1. KPIの設定

インシデント管理がうまくいっているかどうかを判断するために、KPI(重要業績評価指標)を定義し、定期的に計測・監視します。代表的なKPIの例としては、以下のようなものがあります。

  • 平均対応時間(ユーザーからの問い合わせから一次回答までの時間)
  • 平均解決時間(問い合わせから最終的な解決までの時間)
  • 再オープン率(一度クローズしたチケットが再度オープンされる割合)
  • エスカレーション率(一次対応で解決できず、エスカレーションを要する割合)

これらの数値を継続的にトラッキングし、目標値と比較しながら改善活動を進めます。

4-2. レポートとフィードバック

週次や月次でレポートを作成し、チーム内や経営層へ共有すると、インシデント管理の現状や課題を客観的に把握できます。また、一定の成果が上がった場合は、その成功要因をスタッフ全員で学び合うことも大切です。逆に思うような成果が出なかった場合は、どのステップに問題があったのかを振り返り、新たな対策を検討します。

4-3. 問題管理との連携

インシデントが繰り返し発生する場合は、根本原因を追究し、再発防止策を検討する問題管理のプロセスが不可欠です。インシデント管理だけでは「とりあえず復旧」が優先されがちですが、問題管理と一体化して運用することで、長期的に見た業務効率やユーザー満足度を大きく高められます。


まとめ

インシデント管理を見直すということは、サービスデスクの対応速度や品質に直結する重要なテーマです。受付や分類を整理して適切な優先度を設定し、一次対応・エスカレーションのプロセスをはっきり定義することで、対応のばらつきを減らし、ユーザーにとっては安定したサポートを受けられるメリットがあります。さらに、KPIを活用して効果測定を行い、問題管理と連携しながら継続的な改善を実施していくことが、ITサービスデスクの成熟度を高める鍵です。

次回の記事では、問い合わせの数そのものを減らすために効果的な「FAQ強化とナレッジベース活用」について、具体的なヒントや事例を交えながら紹介します。サービスデスクの負荷を下げつつ、ユーザーの自己解決を促進する仕組みに興味のある方は、ぜひ続けてご覧ください。

ユーザー満足度アップのカギ:迅速なレスポンスとホスピタリティ

はじめに

ITサービスデスクにとって、ユーザー満足度を高めることは非常に重要な課題です。多くの場合、ユーザーは仕事や作業の合間を縫って問い合わせを行います。そこに対して迅速かつ的確に対応が行われれば、サービスデスクへの信頼感が増し、業務効率も向上していきます。逆に、ユーザーが何度も問い合わせをしなければ解決しない、回答が得られるまでに長時間待たされる、といった状況に陥ると、不満が蓄積してしまうだけでなく、組織全体の生産性低下に繋がる恐れすらあります。

本記事では、「ユーザー満足度を高めるためのポイント」として、特に重要な「迅速なレスポンス」と「ホスピタリティ(おもてなしの姿勢)」の2点を中心に取り上げます。単なる事務的対応ではなく、いかにユーザーの立場を考慮してサポートを行うかが、サービスデスクの評価を左右する大きな要素です。今回の投稿を通じて、自社や自チームで取り入れられる施策を見つけてみましょう。


1. ユーザー満足度を左右する要因

1-1. 速度と正確性

問い合わせ対応において、ユーザーが最もストレスを感じる要因の一つが「待ち時間」です。返信や回答が遅いと、その間ユーザーは業務を進めることができず、ストレスがたまってしまいます。一方で、時間を優先するあまり回答内容が不十分だったり誤りが多かったりすると、結局再問い合わせに繋がるため、トータルで見ると余計に時間がかかってしまうケースもあります。迅速性と正確性のバランスをどうとるかが鍵です。

1-2. スタッフの態度・コミュニケーション

サービスデスクの対応スタッフが、丁寧かつ親身になって話を聞いてくれるかどうかは、ユーザーの満足度に大きく影響します。言葉遣いや声のトーン、メールでの文章表現など、一つひとつのコミュニケーションが評価の対象となります。また、技術的な知識は十分でも、ユーザーが理解できる言葉で説明できていなければ、結局「サポートが不親切」という印象を与えてしまう可能性もあるでしょう。

1-3. 解決までのプロセス

サービスデスクの一次対応で解決しない場合、適切に二次対応先(エスカレーション先)に引き継がれるかも重要です。エスカレーションがスムーズに行われないと、ユーザーはたらい回しにされていると感じ、満足度が下がります。解決に至るまでのプロセス全体が、「ユーザー視点」で最適化されているかどうかが問われます。


2. 迅速なレスポンスを実現する工夫

2-1. SLA(サービスレベル合意)の設定と周知

「問い合わせに対する一次応答は○時間以内」「解決目標は○日以内」など、明確な目安(SLA)を設定することで、スタッフ間での共通認識を作り、対応を早めるモチベーションを高められます。また、ユーザーにもこのSLAを伝えておくと、「どのくらい待てば回答がもらえるか」が事前に分かり、不要な不安や催促を減らすことができます。

2-2. インシデント管理ツールの活用

問い合わせ状況を一元管理できるツールを導入すると、問い合わせのステータスが可視化され、対応漏れや遅延を防ぎやすくなります。担当者が不在の場合でも、他のスタッフが対応の引き継ぎを行えるなど、チーム全体で迅速なサポートを提供できるようになります。

2-3. テンプレートやマクロの活用

メールやチャットでの定型回答が多い場合、テンプレートやマクロを準備しておくと返信速度を向上させられます。よくある問い合わせに対して、あらかじめFAQ連携やテンプレートを用意しておけば、スタッフはそれをもとに素早くカスタマイズして送るだけで済みます。ただし、あまりに定型的で冷たい印象にならないよう、一文でもユーザーの状況に合わせた言葉を添える配慮があるとより好印象です。


3. ホスピタリティを高めるポイント

3-1. 共感と傾聴

ユーザーが何らかのトラブルを抱えているときは、不安や苛立ちを感じていることが少なくありません。そうした気持ちを「ご不便をおかけして申し訳ございません」「お気持ちお察しします」というように認め、共感を示すだけでも、ユーザーの心理的ハードルは下がります。相手の言葉をさえぎらず最後まで聞き、まずは状況を理解することがホスピタリティの基本です。

3-2. ユーザー目線の説明

専門用語や社内用語を多用すると、ユーザーが混乱してしまうことがあります。例えば、パソコンが起動しないユーザーに対して「ブートセクターがどうのこうの…」と説明しても、ほとんど意味が伝わりません。代わりに、具体的な操作手順を「パソコンの電源ボタンを10秒間押し続けてください」といった形で案内するなど、相手のレベルや状況に合わせた説明が大切です。

3-3. 感謝の気持ち

「お問い合わせいただきありがとうございます」「お忙しい中ご連絡ありがとうございます」という一言を添えるだけでも、サービスデスクに対する印象は変わります。ユーザー側から見れば、わざわざサービスデスクに連絡をするのは手間がかかる行為です。彼らが問題を報告してくれるおかげでIT環境が改善される可能性がある、という意識をスタッフ全員で共有しておくと良いでしょう。


4. チームで共有すべき基本マナーとガイドライン

4-1. コミュニケーションガイドラインの整備

スタッフ間でばらばらの対応をしていると、ユーザーによって対応の質や速度にムラが生まれます。それを防ぐには、言葉遣いやメールの書式、基本的な挨拶文など、共通のガイドラインを作成し、チーム全員が参照できるようにしておくと良いでしょう。新人スタッフの教育ツールにもなります。

4-2. 定期的なロールプレイやフィードバック

スタッフ同士でロールプレイを行い、想定問答やクレーム対応などのシミュレーションをすることで、実践的なスキルを磨くことができます。また、電話やメールの対応内容をお互いにチェックし、良い点・悪い点をフィードバックし合うカルチャーを築けば、ホスピタリティ全体の底上げが期待できます。


5. 迅速かつ親切な対応を支える仕組み

5-1. FAQやナレッジベースの充実

よくある問い合わせについてはFAQやナレッジベースを整備しておくと、ユーザー自身で問題を解決できるようになり、サービスデスクの負担も軽減します。スタッフ側から見ても、すぐに回答を検索できるためレスポンスが早まり、しかも回答内容に一貫性を保ちやすくなります。

5-2. チケット管理の工夫

問い合わせが来た時点でチケットを自動発行し、ステータスを「受付済」「対応中」「エスカレーション中」「完了」などに分けて管理するシステムがあると、レスポンスの遅れや対応漏れを最小化できます。対応スタッフだけでなく、チーム全体が「どのチケットがどの段階にあるか」を一目で把握できる体制が理想です。

5-3. ユーザーへの状況報告

対応が長引く際やエスカレーションが必要な際は、経過をユーザーに適宜報告することを忘れないようにしましょう。ユーザーは「いまどうなっているんだろう」「放置されているのではないか」と感じると不安になります。短い文面でもよいので、進捗を連絡することでユーザーの安心感を高められます。


まとめ

ITサービスデスクがユーザーに与える印象は、組織全体のIT部門や企業イメージにも大きく影響を及ぼします。迅速なレスポンスを実現するためには、SLAの設定やチケット管理、ナレッジベースの整備などの仕組みづくりが欠かせません。一方で、スタッフのホスピタリティを高めるためには、コミュニケーションスキルやユーザーに寄り添う姿勢、感謝の気持ちを忘れない風土が重要です。

ユーザーにとっては、ITの知識が豊富であるほど良いサポートとは限りません。専門用語を使わず、親切で分かりやすく説明し、早めに解決へ導くことで「このサポートに相談してよかった」と思ってもらえるようになるでしょう。次回の記事では、インシデント管理のプロセスを最適化する具体的なステップについて解説します。ぜひ併せてご覧ください。