ゼロトラストアーキテクチャの概念理解:【第2話】ゼロトラスト導入のメリット・デメリットを知ろう

■ はじめに

前回はゼロトラストの基本概念や誕生の背景を解説しました。第2話では、ゼロトラストを導入することで得られるメリットと、導入にあたって考慮すべきデメリット・課題について詳しく見ていきます。
「ゼロトラストっていいことばかりなの?」と疑問を抱く方も多いと思いますが、実際には運用面でのコストや組織構造の改革が必要です。それらを理解した上で計画を立てることが成功のカギとなるでしょう。


■ ゼロトラスト導入のメリット

  1. リモートワーク・クラウド対応が容易になる
     ゼロトラストの導入により、社内外の境目をなくし、どこからでも安全にアクセスできる環境が整う。これにより、働き方改革やグローバル展開が推進しやすくなる。ただし、適切な設計がなければ逆にアクセス管理が複雑化するため、慎重な導入が必要。
  2. 内部犯行やアカウント乗っ取りに強い
     従来の境界防御モデルでは、一度内部に侵入されると自由にアクセスできるリスクがあったが、ゼロトラストではすべてのアクセスが認証・監視の対象となるため、不正アクセスや乗っ取りのリスクを低減できる。ただし、認証情報の流出や内部協力者による不正を完全に防げるわけではないため、多層的な対策が必要。
  3. セキュリティ監査やコンプライアンス対応が容易になる
     詳細なアクセスログや認証履歴が記録されるため、監査対応や業界規制、国際標準(ISO 27001、NISTなど)への準拠がしやすくなる。ただし、ログの収集・分析を適切に行う体制がないと、情報が活用されず形骸化する可能性がある。
  4. 可観測性(Observability)の向上
     ネットワークやアプリケーションへのアクセスがすべて可視化され、異常検知やトラブルシューティングが容易になる。ただし、誤検知を減らすための適切なルール設定や、監視のためのリソース確保が必要。

■ ゼロトラスト導入のデメリット・課題

  1. 初期コスト・運用コストが増大する
     ゼロトラストの導入には、ID管理システム、認証基盤、マイクロセグメンテーション、エンドポイントセキュリティの整備が必要となり、初期投資が発生する。また、継続的な運用コストも増える可能性がある。ただし、適切に導入すれば長期的にはインシデント対応コストを削減できる。
  2. 既存システムとの互換性問題
     レガシーシステムやオンプレミス環境が多い場合、ゼロトラストのポリシーと適合させるための大幅な改修が必要になることがある。特に、社内IPベースでアクセス制御しているシステムでは、アクセス管理の見直しが求められる。
  3. ユーザーの利便性が低下する場合がある
     頻繁な認証要求やアクセス制限の変化により、業務の流れが煩雑になる可能性がある。しかし、SSO(シングルサインオン)の導入や、リスクベース認証(低リスク環境では認証を簡略化)を活用することで、影響を最小限に抑えることが可能。
  4. 組織の文化・マインドセットの変革が必要
     従来の「社内=安全、社外=危険」という考えを捨て、すべてのアクセスをゼロから評価する意識改革が求められる。そのためには継続的な教育と啓発活動が不可欠であり、特に導入初期は社内の理解を深める取り組みが重要。

■ 導入のための検討ステップ

  1. 現状評価とゴール設定
    • まずは既存システム・ネットワーク構成、リスク評価を行い、「どのレベルまでゼロトラストを導入したいのか」ゴールを定めましょう。
  2. 小規模パイロット導入
    • 全社導入の前に、特定の部署やシステムでトライアルを実施し、問題点を洗い出すとスムーズです。
  3. ID管理・認証基盤の整備
    • シングルサインオン(SSO)や多要素認証(MFA)など、“人”を識別する仕組みを先行して整えるケースが多いです。
  4. ネットワークのマイクロセグメンテーション
    • サーバーやアプリごとにセグメントを分割し、アクセス制御を厳密化。セキュリティポリシーを細かく適用します。
  5. モニタリングと改善サイクル
    • 運用開始後も、ログ分析と定期的な評価を行い、ポリシーを見直し続ける体制が必要です。

■ まとめ

ゼロトラストを導入すると、セキュリティ面での恩恵は大きい反面、初期の構築や運用での負荷が少なくないことも事実です。メリットとデメリットの両面をしっかり検討しながら、組織のニーズに合ったアプローチを選択することが重要と言えます。
次回の第3話では、ゼロトラスト導入を成功させるための具体的ステップや、主なツール/サービス例をより詳しく紹介していきます。


【参照URL】

総務省「国民のための サイバーセキュリティサイト」

Microsoft Zero Trust Overview

IBM ゼロトラスト・セキュリティー・ソリューション

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