第1回:ストレージルーム診断 ― 混沌を「見える化」する

(全10回連載:IT資産ストレージ運用・管理ガイド)

1. はじめに ― “倉庫崩壊”はなぜ起こるのか

中小企業 (PC 100 台規模) では、**「物品は入るのに台帳は更新されない」**という断絶が常態化しがちです。具体的には ①セキュリティ事故 ②コスト増 ③法令・監査リスクという“三重苦”が発生します。国際規格 ISO/IEC 19770-1 (ITAM) が示す成熟度モデルでも、最下位レベルは「資産の正確な所在が把握できない」状態と定義されています。​

本連載のゴール
6 か月以内に “検索性 30 秒以内” のストレージルームを実現し、その状態を 継続的に維持 する仕組みを構築することです。


2. ITAM成熟度セルフチェックフレームワーク

ISO 19770-1では、方針 → プロセス → データ → ツール の4軸で成熟度を段階評価します。本記事では、それを現場で測定可能な 30 項目チェックリストに落とし込みました(後述テンプレート参照)。

2-1 項目設計のポイント

代表質問例測定指標
方針廃棄基準を文書で定義しているかYes/No
プロセス棚卸しの頻度は年2回以上か回/年
データ台帳と実物の差異率
ツールタグ読み取りが自動化されているかYes/No

3. 30 項目チェックリストの使い方

  1. 所要時間:約60 分
    チェック項目を現地確認しながら Yes/No で選択。
  2. 採点
    Yes = 1 点No = 0 点 で合計 30 点満点。
  3. 評価基準
    • 0–14 点:Redゾーン(緊急是正)
    • 15–24 点:Yellowゾーン(3 か月改善)
    • 25 点以上:Greenゾーン(維持+最適化)

👉 サンプルテンプレートは下記からダウンロードできます。各列に「現状」「点数 (0/1)」「コメント」を入力すると自動で合計点とゾーンを色分け表示します。

Download 現状診断チェックシートサンプル.xlsx


4. “数字”を集める前準備 ― 二重台帳の統合

棚札や保証書が紙束のまま保管されている場合、まず 物理在庫ラベル ⇔ 電子台帳 (CSV/Excel) の突合せが必要です。AssetPanda 2024 GUIDE は「差異率 5 % 未満」を維持基準としています。​

  • 鍵は Unique ID の一意性
    • ハード ID (シリアル) + サブID (付属品/保証書) を命名規則で決定
  • 突合手法
    1. バーコード/RFID 一括読み取り
    2. CSV へエクスポート
    3. VLOOKUP または Power Query で差分抽出

5. 視覚マップで“倉庫迷路”を共有

Cloudaware 2025 HAM ガイドは、ゾーン/棚/階層 を色分けした「ヒートマップ式レイアウト」を推奨しています。​

作成ステップ

  1. 無料ツール draw.io で倉庫の俯瞰図を作成
  2. 棚番号を頂点ラベルで記入
  3. 資産カテゴリをレイヤーで色付け
  4. PNG 書き出し → SharePoint/Teams へ共有

TIP: 更新頻度はレイアウト変更時 + 月次棚卸し。古い図面は「廃止版」と明示して誤使用を防止します。


6. 診断後のクイックウィン (2 週間プラン)

優先度ボトルネック14 日間での是正策
★★★棚番号が欠落シール印刷 + 図面更新
★★タグ未貼付資産固定資産番号で統一ラベル発行
★★廃棄隔離が未実施「廃棄予定」ラックを追加
保証書散逸スキャナでPDF化し台帳リンク
台帳差異 >10%イレギュラー棚卸しを即実施

7. 次回予告

第2回は 「レイアウト&動線最適化:1 ㎡あたりの生産性を高める」 を取り上げます。ABC 分析と「通行距離 30 % 削減」を目指す棚配置法を解説します。お楽しみに!

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