インターネットは「通信手段」ではなく、情報・取引・組織・世論形成の“基盤”そのものを置き換えました。結果として、国家は統治コストと安全保障の前提を更新し、企業は流通・広告・金融を再配線し、個人はメディアと労働の持ち方を刷新していきました。
本稿は、各種の公的統計・国際機関レポートを軸に、年代(10年単位)で整理します。
データと前提(定義の注意点)
- 「インターネット利用率」は、統計ごとに定義(直近3か月利用など)が微妙に異なり、年次改訂も起こり得ます。ここでは世界時系列は **FRED(World Bank系のシリーズ)**を軸に、直近年は World Bank Data360 / ITU で補完します。
- 以降の分析は「世界平均」を主軸にしつつ、制度・政治イベントはEU/米国など影響が大きい地域の出来事も含めます(ただし“世界のルールの雛形”になったもの中心)。
変化のメカニズム(なぜ、そんなに効いたのか)
インターネットが効いた理由は、ざっくり言えば次の3つです。
- 複製コストと流通コストが限界まで下がる(情報・コンテンツ・ソフトウェア・広告が“配送”から解放)
- 取引コストが下がる(検索・比較・決済・配送追跡が統合され、中間業が再編)
- ネットワーク効果で寡占が起きやすい(規模が品質に直結し、プラットフォーム化=市場支配が進む)
この3点が、政治(世論形成・情報戦)、経済(広告・小売・金融)、社会(メディア・働き方)へ連鎖的に波及しました。
年代別:指標で見る「普及と基盤」の推移(一覧表)
指標の核:世界のインターネット利用(人口あたり)
1990年代は“ほぼゼロ”から立ち上がり、2010年代でスマホ+クラウドにより生活インフラ化、2020年代で規制・安全保障と一体化。
| 年代 | 主な基盤の出来事(技術・制度) | 世界のインターネット利用(人口あたり) | 補足データ(普及の質) |
|---|---|---|---|
| 1960s | ARPANETの原型的試行(研究ネットワーク) | — | 1969年の初期メッセージ送信が「起点」の象徴として語られる |
| 1970s | TCP/IPの設計思想が形成、電子メール等が研究界隈で定着 | — | 「通信の標準化」がのちの爆発に直結 |
| 1980s | 研究ネットワークの拡張、DNS等の基盤整備 | — | 公共資金+大学ネットが商用化の前段に |
| 1990s | WWWの発明(1989)→公開(1993の公開/オープン化が拡散を加速) | 1990: 0.05 → 2000: 6.72 | Webが「一般社会のUI」になった |
| 2000s | ブロードバンド普及、検索・EC・SNSの土台形成 | 2010: 28.5 | “検索”が購買と広告を支配し始める |
| 2010s | スマホ+アプリ+クラウドで日常化、SNSが世論形成の中核へ | 2020: 59.3 | データ保護(GDPR等)で統治ルールが整備 |
| 2020s | パンデミックでデジタル移行が加速、地政学・規制・セキュリティと一体化 | 2023: 67.4 / 2024: 71.2 | ITU推計:2025年 約74%(約60億人)、2024年は約68%(約55億人) |
年代別:政治・安全保障(一覧表)
| 年代 | 何が変わったか(政治・統治) | 新しく生まれたもの | 相対的に弱くなったもの |
|---|---|---|---|
| 1990s | 情報公開と市民アクセスが拡大、政府・報道の「一方向」優位が低下 | 政府サイト、オンライン言論空間 | 情報独占(放送・紙中心の統制) |
| 2000s | 国家安全保障に“サイバー”が常設議題化(攻撃面が現実の政策課題に) | CERT/CSIRT整備、国家サイバー戦略の常態化 | 「物理境界=防御境界」という発想 |
| 2010s | SNSが動員・世論形成に直結、同時に情報操作・介入・漏えいが政治リスク化 | 影響工作(情報戦)の産業化、監視/諜報のデジタル化 | “時間をかけた合意形成”の余裕 |
| 2010s後半〜 | サイバー兵器の存在が一般化(重要インフラが標的化) | 重要インフラ防護、ゼロトラスト等の統治技術 | 「重要設備はオフラインだから安全」神話 |
| 2020s | データ主権・輸出規制・プラットフォーム規制が地政学の中核へ | デジタル規制の国際競争(標準争い) | “国境なきネット”の楽観主義 |
※Stuxnetは「サイバー兵器時代の象徴例」として学術側でも整理されています(2007〜2010にかけて標的型で物理設備へ影響)
年代別:経済・産業構造(一覧表)
| 年代 | 何が変わったか(経済) | 代表データ | 生まれたもの | 消えた/縮んだもの |
|---|---|---|---|---|
| 1990s | EC前夜:カタログ/電話注文のデジタル化、広告のオンライン移行が萌芽 | — | ISP、ポータル、初期EC | 紙の電話帳・紙の情報仲介が弱体化 |
| 2000s | 検索連動広告とECで「流通+広告」が再設計、仲介業が再編 | — | 検索広告、ECモール、SaaSの原型 | 一部の中間流通(予約・手配・小売) |
| 2010s | プラットフォーム経済が本格化(アプリ経済、クラウド、ギグ) | UNCTAD:2019年の世界ECは約26.7兆ドル(“GDP比3割相当”との整理) | クラウド、アプリ経済、サブスク | 物理メディア販売(CD/DVD等)の主役交代 |
| 2020s | パンデミックでEC・デジタル決済が一段加速、広告も“デジタル前提”に | 小売EC比率:2019年16%→2020年**19%**へ上昇(UNCTAD) | D2C、リテールメディア、デジタル公共基盤(ID/決済) | 既存店舗の一部、紙中心の販促 |
| 2020s中盤 | 広告市場の重心が完全にデジタルへ | 2025年:純デジタルが73.2%(予測、WPP Media) | クリエイタープラットフォーム、コマース広告 | 旧来型マス広告の相対的地位 |
年代別:社会・文化・メディア・働き方(一覧表)
| 年代 | 何が変わったか(社会) | 代表データ | 生まれたもの | 消えた/縮んだもの |
|---|---|---|---|---|
| 1990s | メディアが“読む/観る”から“探す”へ(検索の生活化) | — | Webメディア、掲示板文化 | 紙百科事典・紙の情報収集習慣 |
| 2000s | 個人発信が常態化(ブログ/動画)、コミュニティが自律的に形成 | — | ソーシャル、UGC | “編集部だけが語る”モデル |
| 2010s | タイムライン化とスマホで「注意(アテンション)」が社会の争奪資源に | — | インフルエンサー、常時接続文化 | ローカル紙・紙広告(特に分類広告) |
| 2010s〜 | 既存新聞の広告モデルが崩壊し、ビジネスモデル転換が不可避に | 米国例:2010年にオンライン広告が新聞広告を上回った(Pew) | ペイウォール、会員制 | 新聞の広告依存(特に紙) |
| 2020s | リモートが制度・文化として定着(ただし揺り戻しも含む) | OECD整理:パンデミック期にテレワークが急増、労働市場の“遠隔対応”が政策課題化 | ハイブリッドワーク、オンライン教育 | “出社が唯一の前提” |
さらに、金融面では「現金中心」から「アカウント+デジタル決済」へ一段進みました。世界銀行は、開発途上地域でデジタル決済利用が2014年35%→2021年57%へ上昇と整理しています。
総括:インターネットが“新しく生んだもの/終わらせたもの”の要約
- 生んだもの:プラットフォーム経済(検索・SNS・EC・アプリ・クラウド)、デジタル広告、デジタル決済、データ保護と規制産業、サイバー安全保障、リモート/分散協業。
- 終わらせた(相対的に縮めた)もの:紙の分類広告モデル、情報の一方向モデル、中間業の一部(予約・手配・小売・広告枠売買)、物理メディア中心の流通。
主要参照データ(URL一覧)
- ITU “Facts and Figures 2025”
https://www.itu.int/en/ITU-D/Statistics/pages/facts/default.aspx https://www.itu.int/dms_pub/itu-d/opb/ind/d-ind-ict_mdd-2025-3-pdf-e.pdf - FRED(Internet users for the World / ITNETUSERP2WLD) https://fred.stlouisfed.org/series/ITNETUSERP2WLD
- World Bank(Individuals using the Internet % / IT.NET.USER.ZS) https://data.worldbank.org/indicator/IT.NET.USER.ZS https://databank.worldbank.org/metadataglossary/world-development-indicators/series/IT.NET.USER.ZS https://datahelpdesk.worldbank.org/knowledgebase/articles/898581-api-basic-call-structures
- UNCTAD “E-commerce and Development Report 2021”(公式PDF) https://unctad.org/system/files/official-document/der2021_en.pdf
- UNCTAD(E-commerce 2019→2020のオンライン比率等:技術ノート/公式PDF) https://unctad.org/system/files/official-document/tn_unctad_ict4d18_en.pdf
- UNCTAD(E-commerceニュース:COVID期の伸び)
https://unctad.org/news/global-e-commerce-jumps-267-trillion-covid-19-boosts-online-sales - WPP Media(広告市場:This Year Next Year / Dec 2025) https://www.wppmedia.com/news/report-this-year-next-year-december-2025
- World Bank(Global Findex 2021:デジタル決済の伸び) https://www.worldbank.org/en/news/press-release/2022/06/29/covid-19-drives-global-surge-in-use-of-digital-payments
- CERN(Web誕生と公開の経緯)
https://home.cern/science/computing/birth-web - Stanford CISAC(Stuxnetの位置づけ)
https://cisac.fsi.stanford.edu/news/stuxnet - Pew Research Center(新聞広告とオンライン広告の転換点:State of the News Media 2011)
https://www.pewresearch.org/2011/03/14/state-of-the-news-media-2011/ https://www.pewresearch.org/wp-content/uploads/sites/8/2017/05/State-of-the-News-Media-Report-2011-FINAL.pdf - OECD(テレワーク:政策論点/測定) https://www.oecd.org/content/dam/oecd/en/publications/reports/2020/11/exploring-policy-options-on-teleworking_d050dd9e/5738b561-en.pdf https://www.oecd.org/content/dam/oecd/en/publications/reports/2021/07/measuring-telework-in-the-covid-19-pandemic_4d514ae3/0a76109f-en.pdf