そのBCP、担当者が不在でも使えますか?――10の質問で点検する

実践BCP 第1回/全13回 情報確認日:2026年11月7日

平日の朝、いつもの担当者に連絡がつかない。共有フォルダーも開けない。そのとき、代わりに対応する人は、最初の行動を選べるでしょうか。

BCP(事業継続計画)の点検では、文書が存在することに加えて、担当者以外の人が必要な情報を取り出し、判断して、作業を引き継げるかを確かめたいところです。今回は、総務・IT・業務部門の兼務担当者でも着手できる、小さな点検の進め方を提案します。

本記事で得られる3つのポイント

  • 「あるはず」を、確認できる記録に変える10の質問
  • 担当者の助言を止めて行う、短時間の確認方法
  • 見つかった課題を、担当・期限・再確認につなぐ記入例

本記事の質問、判定区分、時間配分、記入例は独自の実務提案です。公的機関の認証基準や、法令への適合を判定するものではありません。ケースは説明のために作成した架空例で、特定の個人・企業の出来事に基づきません。

1. 最初に確かめたいのは「計画を使う人」

内閣府(防災担当)発行の「事業継続ガイドライン」(令和5年3月)は、緊急時の役割や権限委譲・代行順位を定めること、対応者が計画を利用できるよう管理すること、教育・訓練を行うことを示しています。担当者不在の点検は、これらを自社で具体化するための一つの方法です。出典:同ガイドライン5.1.1.1、5.2、6.2

例えば、代替担当者の名前が一覧にあっても、承認権限が設定されていなければ処理は止まります。手順書があっても、保管場所へのログインに不在者の端末が必要なら読めません。点検では「誰かが説明できる」状態から、「別の人が実際に使える」状態へ進めます。

今回の到達点

重要業務を一つ選び、代替担当者が止まった箇所を記録する。その中から優先して直す一件について、責任者・期限・再確認方法を決めます。初回から全社のBCPを完成させる必要はありません。

2. 点検前に決めること

対象と役割を決める

対象は「受注の受付」「問い合わせへの一次回答」など、一連の作業として追える範囲に絞ります。普段の担当者、代替担当者、記録役を決め、普段の担当者は説明を控えます。兼務する場合も、作業を試す時間と振り返る時間を分けてください。

使えない条件を決める

想定は、まず「担当者が不在」に限定し、次に「通常の連絡・文書保管先が一つ使えない」を追加します。条件を一度に増やしすぎると、どこが原因で止まったのか分からなくなります。

本番環境を止める訓練ではありません。通信や認証を実際に無効化せず、利用できないものとして机上で進めます。個人情報を含まないダミーデータと承認済みの検証環境を使い、顧客への送信、支払い、削除、権限変更は実行しません。実災害では人命・安全確保を優先します。

3. 担当者不在を点検する10の質問

次の表は、本記事独自の点検案です。対象業務の条件に合わせて調整し、「証拠・試すこと」を実際に確認してください。紙に転記して使うこともできます。スマートフォンでは表を左右にスクロールできます。

質問 証拠・試すこと 止まったときの見直し
1. 最新の手順を取り出せるか 代替担当者が保管先を開き、版と更新日を示す。 入口を一つに整理し、古い版と区別する。
2. いつ誰が切替を判断するか分かるか 担当者不在時の判断者と、切替条件を説明する。 「責任者に相談」で止まらない判断経路を決める。
3. 代行者は何を決められるか 受付、納期回答、例外承認などの権限範囲を確認する。 できること・上位判断が必要なことを分ける。
4. 先に処理する仕事を選べるか 架空の依頼を二件並べ、優先する理由を説明する。 締切・影響・必要条件を手順に追加する。
5. 使える連絡経路が残るか 通常経路を使わず、社内の訓練相手への連絡方法を確認する。 代替先も同じ端末・認証・回線に依存していないか調べる。
6. 必要な情報と権限があるか 代替担当者自身の承認済みアカウントで必要な情報に到達できるか確認する。 権限の不足を管理者へ伝える。パスワード共有で補わない。
7. 最初の一件を処理できるか ダミーの依頼一件を、受付から次の担当への引渡しまで追う。 口頭で補った内容を、手順と記入例に反映する。
8. 顧客への説明を準備できるか 確定情報・未確認事項・次の連絡予定を分けて、送信しない文案を作る。 承認者と発信担当を決め、裏付けのない復旧時刻を約束しない。
9. 復旧後に記録を戻せるか 仮受付した一件を通常台帳に戻す方法と、重複確認を説明する。 仮番号、入力担当、照合担当、完了条件を決める。
10. 更新後に他の人も使えるか 修正した手順を代替担当者が再度試し、結果を残す。 配布だけで完了せず、再確認日を設定する。

4. 合計点より「どの条件で確認できたか」を残す

今回の点検では点数を足し合わせず、次の区分を使うことを提案します。九つできても、必要な承認が一つできなければ、その業務はそこで止まります。

  • 確認済み:設定した条件で、代替担当者が作業し、結果を確認できた。
  • 条件付き:本来の条件では止まったが、振り返りで担当者の助言や、使えない想定の資料を加えると進められた。
  • 未確認:説明はできるが、まだ試していない。
  • 要改善:実際に試して止まった、または誤りが生じた。
  • 対象外:今回の業務には該当しない。理由も記録する。

「確認済み」は、今回の条件でできたという意味です。別の担当者、停電、広域障害、依頼件数の増加でもできるという保証にはなりません。検証環境で確認したことと、本番で確認したことも分けて残します。

5. 架空例:受付はできたが、引渡しで止まる

ここでは、問い合わせを受け付けて担当部署へ引き渡す業務を想定します。代替担当者は受付票を作れましたが、振分け表の保管場所が分からず、点検をいったん終了しました。振り返りで普段の担当者に保管先を教わり、引渡し先を判断できました。この場合、受付票の作成は確認済みでも、引渡しまでの一連の作業は条件付きです。

改善は「手順を詳しくする」だけでは足りません。振分け表への入口とアクセス権を整え、代替担当者が同じ条件で再び試して、初めて改善の効果を確認できます。以下は実際の訓練結果ではなく、記録方法を示す架空の記入例です。

記録項目 記入例
対象・想定 問い合わせ受付から引渡しまで。普段の担当者は助言しない。
確認した事実 受付票を作成。振分け表を見つけられず、点検終了後の振り返りで担当者の説明を受け、引渡し先を判断。
判定と影響 条件付き。受付済みでも担当部署に届かず、対応開始が遅れる可能性。
修正内容 手順の冒頭に振分け表の保管先と管理担当を記載。代替担当者の閲覧権限を確認。
責任者・期限 業務責任者。点検から5営業日以内を例として設定。
再確認と完了条件 修正後、別のダミー依頼を使って、助言なしで引渡し先を選び記録できること。

記録にはパスワードや認証コード、顧客の実データを書かず、必要な管理担当・保管先を示します。担当者名や社内の連絡先を記入した記録は、業務上必要な人に共有範囲を限定してください。

6. 30分で始める小さな確認

次の時間配分は、初回の着手をしやすくするための提案です。30分でBCP全体を検証できるという意味ではありません。事前に対象業務、訓練用の資料、関係者の了承を準備します。

0〜5分対象業務と使えない条件を共有する。
5〜15分10の質問を読み、確認できるものと未確認を整理する。
15〜25分一つの作業を代替担当者が試し、止まった箇所を記録する。
25〜28分影響と原因を整理し、最初に直す一件を選ぶ。
28〜30分担当、期限、再確認日を決める。

途中で時間が足りなくなったら、未確認のまま残して構いません。進行役が答えを教えて完了させると、手順の不足が見えなくなります。人の評価ではなく、業務を支える情報・権限・手順の点検として進めてください。

7. 課題を選ぶときの順序

改善候補が多い場合は、まず安全に関わる問題、次に判断や連絡の開始を妨げる問題、その後に対象業務を止める問題を確認します。そのうえで、停止による影響、代替手段の有無、修正に必要な期間を並べます。これは選び方の提案であり、自社の業務特性に応じて調整してください。

すぐに直せない問題は、責任者へ報告し、対応までの暫定手順と再判断の時期を決めます。「費用がかかるので次回検討」とだけ記録すると、未解決の条件が残り続けます。

点検後に残す3つの記録

  • 止まった箇所と、そのときの条件
  • 最初に直す一件の責任者と期限
  • 再確認する日と、改善を確認できる完了条件

今週の一歩:普段の担当者以外の人に、対象業務の最新手順を取り出してもらってください。見つからない、開けない、どれが最新版か分からない。そのうち一つでも起きたら、改善の出発点になります。

8. 次回につなげる

第2回では「全部は守れない。災害時に続ける業務・止める業務の決め方」を扱います。今回の点検で判断に迷った仕事を持ち寄り、何を先に再開するか、何を一時的に止めるかを考えます。

BCPの全体像や過去の連載は、BCP関連記事一覧から確認できます。本連載では、毎回一つの作業や判断を具体的に点検していきます。

出典・編集方針

一次資料:内閣府(防災担当)「事業継続ガイドライン―あらゆる危機的事象を乗り越えるための戦略と対応―」(令和5年3月)。本記事では5.1.1.1「緊急時の体制」、5.2「計画等の文書化」、6.2「教育・訓練の実施」を確認しました。発行主体は資料発行時の表記です。

原資料PDFを読む(情報確認日:2026年11月7日)。ガイドラインの考え方を短く紹介し、点検表・例・進め方は本記事独自に作成しています。資料の図表・文章の転載は行っていません。