【第11回】KPIの再設定と可視化

はじめに

前回は「第10回:分析リテラシー向上のための勉強会運営」についてお伝えしました。継続的に社内勉強会を開き、知見を共有し合うことで、全社員のデータ分析スキルや意識を底上げできるというポイントが大切でしたね。
勉強会や小規模分析を繰り返していると、「実際にやってみて分かった新しい課題」や「もっと注目すべき指標があった」という気づきが出てくるものです。最初に設定したKPI(重要業績評価指標)が現場の実態に合わなくなっている可能性もあります。

そこで今回は、「KPIの再設定と可視化」をテーマに、データ活用が定着し始めたタイミングで改めてKPIを見直す方法や、ダッシュボードやレポートの“見える化”施策を強化するポイントを解説します。ここでしっかりとKPIを整備し直すことで、次のステップでさらに高度なデータ活用が行いやすくなります。


1. なぜKPIの再設定が必要なのか

  1. 実態とズレたKPIでは成果が測れない
    • プロジェクト開始時に決めたKPIが、検証を進めているうちに「実はもう少し違う指標のほうが役立つのでは?」というケースは珍しくありません。
    • たとえば「ページビュー(PV)数」をKPIとしていたが、実際には「問い合わせ件数」や「購買率」のほうが事業成果との関連が強かった、など。
  2. 組織の変化や戦略転換に伴う見直し
    • 企業の中期計画や市場環境の変化によって、重点的に取り組むテーマが変わることもあります。
    • 新規事業の開始や方針転換があれば、それに合わせて適切なKPIに更新する必要があります。
  3. 社員のモチベーションや行動を適切に導く
    • KPIは、社員の行動指針としての役割も担っています。現場と乖離した指標はやる気を削ぎ、間違った方向に努力が向かう恐れも。
    • リアルな業務目標・データ分析結果と連動したKPIが明確であれば、取り組むべき行動がはっきりし、組織全体のベクトルが揃いやすくなります。

2. KPIを見直すステップ

  1. 現状KPIの評価
    • まずは現行のKPIがどの程度達成されているかを数字で確認し、「想定通り運用できているか」「指標として有効か」を客観的に評価します。
    • うまく機能していないKPIは、達成率が測りにくい、意義が伝わっていない、データ収集が難しいなど、何かしらの原因があるはずです。
  2. 上位戦略や現場課題とのすり合わせ
    • 経営層や部署管理職にヒアリングし、現行の事業方針や重点施策を再確認します。
    • また、現場にも「どんなデータを指標にすると業務改善につながるか」を尋ね、トップダウンとボトムアップ両面から候補KPIを絞り込みます。
  3. SMARTな目標設定
    • 新たに設定するKPIは、よく言われる「SMART(Specific, Measurable, Achievable, Relevant, Time-bound)」の原則を意識すると分かりやすくなります。
      • Specific(具体的)
      • Measurable(測定可能)
      • Achievable(達成可能)
      • Relevant(関連性が高い)
      • Time-bound(期限が明確)
    • 例えば、「今期末(Time-bound)までに、自社ECサイトの月間購入回数(Specific/Measurable)を現状の××件から××件に増やす(Achievable/Relevant)」といった形です。
  4. データとの連携方法を定義
    • KPIを決めても、その数値をどのように取得し、分析するかが不透明だと運用が進みません。
    • 「どのシステムのどのテーブル・フィールドを参照するのか」「更新頻度はどうするか」など、データ連携方法を明確にしておきます。
  5. モニタリング体制の確立
    • 社員や関係者がいつでもKPIの最新状況を確認できるよう、ダッシュボードや定期レポートを整備します。
    • KPIに異常値が出たり、目標達成率が低迷している場合は、速やかにアラートが届く仕組みを検討するのも有効です。

3. KPIの“見える化”を強化する方法

  1. ダッシュボードの活用
    • BIツールで複数のKPIを一画面にまとめて表示し、グラフやゲージなどで進捗を直感的に把握できるようにします。
    • 各ユーザー(経営層、部門長、担当者など)に合わせて、必要な指標だけを表示したパーソナライズドなダッシュボードを提供するのも良いでしょう。
  2. 定期レポート・社内報での共有
    • 週次や月次などの頻度で、KPIの推移をまとめたレポートを社内全体に共有します。
    • 特に、新しいKPIを導入した直後は、「今どんな進捗状況なのか」を繰り返し周知しないと存在を忘れられがちです。社内報やメール、朝礼などを活用してこまめに発信しましょう。
  3. アラート機能や自動通知
    • KPIが設定した基準を下回ったり超過したりした場合に、メールやチャットツールでアラートを飛ばす仕組みを設定します。
    • 異変に気付くタイミングが早ければ、対処や原因究明もスピードアップします。
  4. KPIボードや壁張り
    • 製造現場や店舗など、PCを常に確認できない環境では、ホワイトボードや掲示板にKPIの数字やグラフを貼り出すと目に留まりやすいです。
    • アナログな方法ながら、視覚的なアピール効果が高いので、部署の目立つところに掲示するのもおすすめです。

4. 注意点:KPIの乱立と形骸化

  1. KPIが多すぎる問題
    • あれもこれもと盛り込んでしまい、結果的にモニタリング項目が増えすぎると、現場が追いきれなくなります。
    • 本当に重要な指標はどれかを厳選することで、管理や対策がしやすい体制が整います。
  2. 数値達成が目的化しやすい
    • KPIを達成すること自体が目的になってしまい、本来のビジネス成果や顧客価値向上が後回しになる危険があります。
    • KPIはあくまで手段であり、継続的に「この指標を追うことで、本当に会社や顧客にとって価値が生まれているか」を検証する視点が必要です。
  3. 定期的な見直しが欠かせない
    • 市場環境や事業戦略が変われば、KPIも進化させる必要があります。
    • “一度設定して終わり”ではなく、半年や1年に一度、評価と再設定の機会を設けると良いでしょう。

5. 具体例

  • 事例A:EC事業のKPI再設定
    • 背景:ECサイトの集客数は十分だが、売上がなかなか伸び悩んでいる。
    • 見直し前のKPI:月間PV数、メルマガ開封率
    • 見直し後のKPI:月間購入率、リピート購入率、平均購入単価
    • 結果:新しいKPIを追うことで、「リピート率が低いのが課題」と判明。顧客に対するフォローアップ施策や会員特典を強化する方針が明確になり、実際の売上増加に繋がった。
  • 事例B:製造ラインのKPIダッシュボード構築
    • 背景:ライン別の稼働率や不良率がExcel管理で手間がかかり、現場で数字を把握できていない。
    • 取り組み
      1. 不良率、稼働率、ライン停止時間、作業者別生産数などをKPIとして可視化。
      2. 1時間ごとに更新されるダッシュボードを工場のモニターに表示し、現場リーダーと連携。
    • 成果:異常が発生した際に早期発見できるようになり、ライン停止時間の短縮に成功。製造部門全体でKPIに関する意識が高まり、品質改善施策が活発化。

6. 今回のまとめ

データ活用が進むと、当初想定していたKPIよりも「実際にはこちらの指標のほうが効果測定に向いている」という気づきが必ず出てきます。こうした学びを見逃さずに、都度KPIを再設定し、可視化方法もアップデートしていくことで、企業全体のデータドリブン経営がさらにレベルアップしていきます。

  • KPIの有効性を客観的に評価し、必要に応じて見直す
  • データの連携方法やモニタリング体制を確立し、いつでも進捗を把握できるようにする
  • KPIが形骸化しないよう、定期的な見直しと運用ルールの徹底を行う

次回は「データ利活用による業務フロー改善」について解説します。KPIをしっかりとモニタリングできる体制が整ったら、そのデータを具体的に業務フローへ落とし込み、どう効率化や意思決定スピード向上につなげるかを見ていきましょう。


次回予告

「第12回:データ利活用による業務フロー改善」
データを日々の業務プロセスに組み込むことで、現場の担当者が素早く状況を把握し、問題発生前に対処する“予防的”な動きが可能になります。実務フロー改善の具体的な手順や事例をお伝えします。

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