はじめに
前回は「経営層によるビジョン・目的の明確化」についてお伝えしました。ビジョンをはっきりさせることで、データ活用プロジェクトを全社的に推進するための大きな土台ができたはずです。
しかし、実際に社内で動き始める際は、経営層や部署の垣根を越えて連携を取る必要があります。そのためには「プロジェクト体制の整備」が非常に重要です。どんなメンバーを選抜して、どのような役割を割り振り、どんなスケジュールで進めるのか――これらを明確化しておかないと、部署同士の連携不足や担当者の不在などによってプロジェクトが頓挫することも珍しくありません。
本記事では、中小企業がデータ活用を進めるうえで必要なプロジェクトチーム編成や役割分担、プロジェクトマネジメントのポイントについて解説します。
1. なぜプロジェクト体制が重要なのか
- リソース確保と予算調整
部署の垣根をまたぐプロジェクトは、担当者の業務負荷が増えたり、部門間の予算配分で調整が必要になったりします。明確なプロジェクト体制を決めておくと、適切にリソースを分配し、必要な予算を確保しやすくなります。 - 責任の所在をはっきりさせる
データ活用プロジェクトは、複数の部署が連携することが多いです。責任の所在があいまいだと、トラブルが生じたときに対応が遅れたり、スケジュールが大幅にずれる原因になります。 - 情報共有と合意形成のスピードアップ
体制を整え、それぞれの役割を明確にしておけば、必要な情報を誰に聞けばよいか、どこで意思決定すればよいかが分かりやすくなり、合意形成がスムーズに進みます。
2. プロジェクト体制を構築するうえでのキーポイント
- プロジェクトマネージャー(PM)またはリーダーの選定
- プロジェクト全体を統括し、各部署との調整を行う中心人物です。
- 経営層とのやり取りも担当するケースが多いので、コミュニケーション能力や調整力が高い人を選ぶと良いです。
- 中小企業の場合、情報システム部門や経営企画部門の責任者が兼任することが多いですが、可能であればプロジェクト専任に近い形でリソースを確保できるとベストです。
- 部門代表者のアサイン
- 部門ごとに1名、データ活用プロジェクトへ参画する「代表者」を決めます。
- 現場の業務フローやデータを最もよく知っているキーパーソンが望ましいですが、業務との兼務になるため、業務分担も考慮しましょう。
- 各代表者は、自部署におけるデータ活用の要望や課題を吸い上げ、PMに報告・相談する役割を担います。
- IT担当者/分析担当者の確保
- データ分析基盤の構築や、ツール導入・運用を担うエンジニア・IT担当者を確保しましょう。
- 「社内に詳しい人材がいない」という場合は、外部コンサルタントやシステムベンダーを活用する選択肢も検討します。
- 必要に応じて、アルバイトや契約社員などで足りない工数を補うこともアリです。
- 経営層への定期報告・レビュー体制
- プロジェクトは現場で動かすだけでなく、経営層へ定期的に進捗報告や成果報告を行い、意思決定をあおぐ流れを用意しましょう。
- 経営層が自ら数字に触れる機会を増やすことで、データ活用に対する理解とサポートが強化されます。
3. スケジュールと予算計画の立て方
- 短期・中期・長期のフェーズ分け
- いきなり大規模に取り組むより、短期的な目標(3か月〜6か月)と中期・長期の目標を分けると進めやすいです。
- 短期(3〜6か月):社内データの棚卸しや簡易分析ツールの試験導入など
- 中期(1〜2年):BIツール導入、複数部門連携の分析プロジェクト開始など
- 長期(3〜5年):DWH(データウェアハウス)構築やAI活用など本格的な高度分析
- 予算確保の考え方
- 中小企業がデータ分析にかけられる予算には限りがあります。まずは身近なところからツールを導入し、結果が出たら段階的に拡大するのがおすすめです。
- 大きな投資が必要な場合(DWH構築、AIシステム導入など)は、明確なROI(投資対効果)を想定して経営層を説得する材料を整えましょう。
- スケジュール管理ツールの活用
- Excelやガントチャート、プロジェクト管理ツール(Trello, Asana, Backlogなど)を使ってタスクや期限、担当者を明確にします。
- 進捗を可視化することで、遅れや問題点を早期に把握できます。
4. 具体例
- 事例A:製造業が行う小規模データ活用プロジェクト
- メンバー構成:
- PM:経営企画課長(工数の2割をPM業務に)
- 部門代表者:生産管理部から1名、品質管理部から1名
- IT担当:情報システム課のリーダー
- 経営層:役員1名が定期レビューに参加
- スケジュール例:
- 3か月目:生産管理データの可視化ツールを導入
- 6か月目:品質管理との連動分析を実施し、不良率削減の施策を立案
- 1年後:製品ごとの不良率を3%→2%に削減
- 予算:BIツール導入費用、外部コンサル1名のサポート費用を計上
- メンバー構成:
- 事例B:小売業が行う店舗データ分析プロジェクト
- メンバー構成:
- PM:マーケティング部門長(工数の1割をPM業務に)
- 部門代表者:店舗管理部から2名(店舗Aと店舗Bを代表)
- IT担当:社内にはおらず、外部ITベンダーとスポット契約
- 経営層:社長が月1回の会議で進捗確認
- スケジュール例:
- 3か月目:店舗POSデータの集約と基本集計を開始
- 6か月目:プロモーションごとの売上分析を行い、効果測定
- 1年後:各店舗の売上目標をデータ分析で最適化、広告費の効率化も図る
- 予算:外部ベンダーへのコンサル費、サーバーなどのランニングコストを含め50万円/月程度を確保
- メンバー構成:
5. 部署ごとの役割の明確化
- 情報システム部門(IT):
システム導入やネットワーク、セキュリティなどのインフラ面を担当。 - 経営企画・PMO:
プロジェクト全体の計画策定、予算管理、進捗管理をリード。 - 現場担当部署:
日々の業務データを作り出す最前線。分析用データの提供、要件定義、効果検証などに協力。 - 人事・総務:
社員の教育研修や、プロジェクトにかかわる契約手続き、外部人材の受け入れ支援など。 - 経営層(役員・社長など):
プロジェクトの承認と継続的な支援、最終意思決定。
6. 今回のまとめ
中小企業がデータ活用を組織的に進めるには、明確な「プロジェクト体制」を整え、「誰が」「どのように」 進めていくかを決める必要があります。役割分担や責任の所在、スケジュール・予算までを具体的に定めることで、プロジェクトがスムーズに動き出します。
- プロジェクトマネージャーを中心としたチーム編成
- 経営層への定期報告でトップの理解と協力を得る
- スケジュールと予算を段階的に設定し、身の丈に合った展開を目指す
この土台がしっかりしていれば、例え途中で問題が起きても対応しやすくなります。次回は「現状のITインフラ・データ管理状況の把握」に焦点を当て、プロジェクトのスタート地点を明確にするための取り組みを解説します。
次回予告
「第3回:現状のITインフラ・データ管理状況の把握」
次回は、自社のどこにデータがあり、どんなフォーマットで保管され、どの程度整合性が取れているのかをチェックし、これからのデータ活用に必要な準備を具体的に進める方法をお伝えします。