■ はじめに
AIを悪用する攻撃が進化するのに合わせ、ディフェンダー側もAIや自動化技術を活用して対抗する必要があります。第4話では、AI時代の防御を支えるセキュリティソリューションやツールの最新動向を解説し、企業が導入を検討する際のポイントを整理します。
■ AIを活用した防御ソリューションの種類
- 次世代型EDR/XDR
- 従来のエンドポイント検知・対応(EDR)に加え、ネットワークやクラウド、メールなど複数レイヤーのデータを統合し、AIが脅威を相関分析するXDR(Extended Detection and Response)が注目されています。
- AIが振る舞い分析を行い、未知のマルウェアやゼロデイ攻撃もパターンマッチに依存せず検出できるのが特徴。
- AI搭載型SIEM/UEBA
- SIEM(Security Information and Event Management)が集める大量のログをAIが解析し、ユーザーやエンティティの通常行動との逸脱をリアルタイムに検知する仕組み。
- UEBA(User and Entity Behavior Analytics)機能が強化され、内部脅威やアカウント乗っ取りを早期に発見する事例が増えています。
- AI駆動のメールセキュリティ
- フィッシングメールやスパムを、AIが文章構造や送信元ドメイン、リンク先など多角的にスコアリング。
- 従来型のシグネチャベースを超え、**自然言語処理(NLP)**を用いて疑わしいメールを検知する製品が普及しています。
- SOAR(Security Orchestration, Automation and Response)との連携
- SIEMやEDRで検知した脅威を、SOARが自動化シナリオで対応。AIがワークフローを最適化し、誤検知を減らしつつ迅速に対処できる。
- インシデント対応フローを標準化することで、スキル差による対応遅延を防ぐメリットがある。
■ 具体的なソリューション例
- Microsoft Defender / Sentinel
- Microsoftが提供するXDR/ SIEMソリューション。Azure Sentinelはクラウド上で大量のログを管理し、AIを使った異常検知やインシデント対応を自動化できる。
- Microsoft公式
- CrowdStrike Falcon
- エンドポイント上の振る舞いをAIで解析し、ランサムウェアなどの怪しい挙動をリアルタイムにブロック。クラウド基盤と連携し、大規模環境でも軽量に運用可能。
- CrowdStrike公式
- Darktrace
- ネットワーク内のトラフィックやユーザー行動をAIが学習し、「自己免疫システム」のように未知の脅威に反応する。
- ゼロデイ攻撃や内部犯行を検出する事例が多く、海外を中心に導入が進む。
- Darktrace公式
- Splunk Enterprise Security + SOAR
- SIEM機能でログを集約し、UEBAでユーザー行動を解析。SOARモジュールと組み合わせれば、脅威発見時に自動的にコンテナを隔離するなどのオーケストレーションが可能。
- Splunk公式
■ 導入・運用のポイント
- 誤検知(ファルスポジティブ)とのバランス
- AIソリューションは高精度だが、完全ではない。誤検知で業務が阻害されないよう、アラートのチューニングや除外設定が必要。
- 運用担当者がアラートの取捨選択や追加学習を行うプロセスを用意しておく。
- セキュリティオペレーション体制の整備
- AIツールを入れるだけで万事解決するわけではなく、SOCやCSIRTがアラートを見てインシデント対応を行う仕組みが不可欠。
- スキルを持ったスタッフや外部MSSP(Managed Security Service Provider)との契約を検討する。
- 可視化とレポート機能
- AIが導き出す結果をわかりやすく可視化し、経営層や関係部門に共有できることが重要。
- 「どんな脅威を何件、防いだか」を数字やグラフで示し、ROIを説明しやすくする。
- 継続的な学習データのアップデート
- 攻撃手法が変化すれば、AIのモデルやルールも随時アップデートが必要。
- ベンダーやオープンコミュニティの脅威インテリジェンスを取り込み、常に最新のデータを学習させる仕組みを整える。
■ まとめ
AI攻撃に対抗するには、ディフェンス側もAIや自動化を使って対処するのが効果的なアプローチです。次世代型EDR/XDR、AI駆動のSIEM/UEBA、SOARなどを組み合わせ、運用体制や教育面も含めて総合的に強化することで、攻撃の高速化や高度化に対応できます。
次回(第5話)では、こうしたAI防御ソリューションの導入と平行して行うべき「社内教育・啓発」と「リスクマネジメント手法」を取り上げ、組織全体でのAI時代のセキュリティ体制づくりを探っていきます。