はじめに
ITサービスデスクの問い合わせを分析すると、「ユーザーの操作ミス」「基礎知識不足」「セキュリティ意識の欠如」などによるトラブルが意外と多いことが分かります。これらは個別対応すると手間がかかり、同じような問い合わせが繰り返し発生しがちです。しかし、エンドユーザーに対して定期的に研修やセミナーを実施し、ITリテラシーやツールの使い方をレクチャーすれば、結果的に問い合わせ件数が減り、サービスデスクの負荷を大幅に下げることができます。
本記事では、サービスデスクが主導する“利用者教育セミナー”のメリットや、企画・運営のポイントを解説します。カスタマーサクセスの観点からも、ユーザーがITを正しく、そして効果的に活用できるリテラシーを身につけることは非常に重要です。
1. エンドユーザー教育のメリット
1-1. 問い合わせ件数の削減
使い方を誤っているだけで発生するトラブルや、基本的な設定・操作を知らないがために問い合わせが殺到する事例は少なくありません。新入社員や異動者が増える4月・10月などのシーズンに合わせてセミナーを行い、共通の基礎知識を与えておけば、一人ひとりが問い合わせなくても自己解決できる確率が上がります。
1-2. 生産性と満足度の向上
ITリテラシーが上がれば、ユーザー自身が業務をスムーズに進められるようになり、生産性が向上します。また、問題が起こった際も「おおまかな原因切り分けを自分でできる」「簡単な対処は自力で行える」となるため、ユーザーのストレスが軽減され、サービスデスクへの不満も減る好循環を生み出します。
1-3. セキュリティリスクの低減
パスワード管理やメールの取り扱い、フィッシング詐欺対策など、ユーザーのセキュリティ意識や知識が不足していると、組織全体のリスクが高まります。セミナーで注意点や具体的な対策を啓蒙すれば、セキュリティインシデントの発生率を抑えられる可能性が高いです。
2. セミナー企画のポイント
2-1. 対象ユーザーとニーズの把握
利用者教育とひと口に言っても、部署や職種によって必要な内容やレベルは大きく異なります。例えば総務部門ならExcelを多用するかもしれませんし、開発部門なら開発ツールのリテラシーが必要かもしれません。事前にヒアリングやアンケートで「どんな内容を学びたいか」「どんなトラブルが多いか」を確認し、セミナー内容を絞り込みましょう。
2-2. カリキュラムの設計
セミナーのテーマ例として、以下のようなものが考えられます。
- 基本操作編: OSや社内システムの基礎操作、アカウント管理、ファイル共有ルール
- オフィスソフト活用編: Excel関数・マクロ、PowerPointデザイン、Wordの文書整形
- セキュリティ対策編: パスワード強度、フィッシング詐欺対策、機密情報の取り扱い
- 業務システム講座: ERPやCRMなど、社内で使っている特定システムの活用法
- トラブルシュート基礎: ネットワーク接続チェック、ドライバ更新、ログの見方 など
対象者のレベルに合わせ、入門・中級・上級と難易度を変えて開催するのも効果的です。
2-3. 講師と教材の準備
サービスデスクスタッフが講師を担当する場合、講師役の負担を考慮しながら複数人で分担したり、得意分野ごとに担当を割り振ると効率的です。教材としては、スライドやハンドアウト、実演用のデモ環境などを用意し、受講者が実際に操作してみる時間を確保すると理解が深まります。
3. 運営と実施の方法
3-1. オンライン・オフライン・ハイブリッド開催
近年はリモートワークが増えているため、オンラインセミナー(Webinar)が主流になりつつあります。録画を残しておけば、後から復習や新規入社者の学習にも活用できます。オフラインで集まってハンズオン形式で行うメリットも大きいので、組織の状況に合わせてハイブリッドで実施するのがおすすめです。
3-2. 少人数ワークショップ
大人数向けの一方通行のセミナーより、10人前後の少人数でワークショップ形式にすると、講師が受講者の進捗を見ながら丁寧に指導でき、疑問点にもすぐ対応可能です。特に実技が絡む場合は、質疑応答を活発に行える雰囲気づくりが重要となります。
3-3. 定期開催とアーカイブ化
一度セミナーを開いて終わりにせず、定期的な開催を計画して継続的な学びの場を提供します。新入社員の入社時期やシステムアップデートのタイミングに合わせ、年間スケジュールを組むと運営がスムーズです。録画や資料を社内ポータルにアーカイブし、欠席者や後から参画した人がいつでも学べる仕組みを整えましょう。
4. 成果の測定と継続的改善
4-1. アンケートとフィードバック
セミナー後に簡単なアンケートを取り、「分かりやすさ」「実践で役立ちそうか」「どのトピックが一番役立ったか」などの項目を評価してもらいます。自由記述欄を設けて改善点やリクエストを収集すれば、次回以降のカリキュラム作成に生かせます。
4-2. 問い合わせデータとの突合
セミナーで取り上げたテーマに関連する問い合わせが、その後減ったかどうかをデータで確認することも大切です。もし変化があまり見られない場合は、セミナー内容が現場のニーズに合っていなかったか、受講者が少なかったか、フォローアップが不足していたなどの原因を検討し、対策を講じましょう。
4-3. 参加者の活用度追跡
一歩進んだ施策として、セミナーで習った機能や操作が実際に活用されているかをシステムログなどでモニタリングし、特定機能の利用率が上がっているかを確認する方法もあります。カスタマーサクセスの発想を取り入れ、「受講後、実際に成果が出るよう追加フォローしましょう」と再度周知すると効果が持続しやすいでしょう。
5. セミナー以外の利用者教育施策
5-1. 常設の学習ポータル
セミナーだけでなく、ナレッジベースやFAQ、チュートリアル動画などを集約した社内学習ポータルサイトを用意すると、ユーザーがいつでも必要な情報を検索できて便利です。検索性やUIを工夫し、更新情報をトップに載せるなど定期的にメンテナンスすると活用度が上がります。
5-2. マニュアルやガイドブックの配布
新入社員や異動者向けに、簡易ガイドブックを配布するのも基本的な施策です。紙ベースだけでなくPDFや電子ブック形式での配信、メール署名へのリンク設置など、複数のアプローチで目に触れる機会を増やすと効果的です。
5-3. メールマガジンや定期情報発信
月1回や週1回のペースで「IT活用のヒント」「問い合わせの多いトラブル対策」などをメールマガジンや社内SNSで発信することで、利用者教育を継続的に進められます。短いTips形式にするなど、読みやすいフォーマットに工夫しましょう。
まとめ
利用者教育セミナーを中心としたエンドユーザーのリテラシー向上は、ITサービスデスクの負担軽減や問い合わせ件数削減、そしてユーザーの業務効率アップに直結する非常に有効な施策です。以下のポイントを押さえて進めると、成功しやすくなります。
- ユーザーのニーズ調査とカリキュラム設計: 部署やレベルに合わせたテーマを用意し、興味を引くトピックを選ぶ。
- 実践型セミナーの運用: オンライン・オフラインの利点を活かし、ハンズオンや少人数ワークショップで理解を深める。
- 定期開催・アーカイブ・フォローアップ: 一度きりで終わらず、継続的な学びの場を作り、問い合わせデータで効果を検証する。
- 多様な教育施策を併用: セミナーに加え、学習ポータルやマニュアル配布、メールマガジンなど多方面から情報を届ける。
次回の記事(第27話)では、「DX時代のサービスデスク:クラウドやAIを活かす最新トレンド」をテーマに、デジタルトランスフォーメーションの波がどのようにサービスデスク運営を変え、どんな技術や手法が注目されているかを紹介します。ぜひ引き続きご覧ください。