WEF「Global Risks Report 2026」いま企業が備えるべきこと

世界のリスク環境は、毎年少しずつ変わるというより、ある時点を境に前提そのものが変わっていきます。今回公開されたWEFの「Global Risks Report 2026」は、まさにその変化を俯瞰で確認するための資料でした。

今回のレポートをどう読むか

短期では「対立と分断」が経営前提になる

今回の印象を一言でいえば、まず短期は「落ち着く方向」ではなく、「複数の緊張が同時に走る方向」で見たほうが自然だということです。地政学や地経学の緊張、誤情報の拡散、社会の分断といった論点は、個別ニュースとして見ていると散らばって見えますが、俯瞰すると互いにつながっています。単発の出来事ではなく、前提条件そのものが揺れていると考えたほうが実務に落とし込みやすいと思います。

長期では「環境」と「AI」が経営の土台を変える

一方で、10年目線になると環境リスクの重みはやはり大きく、そこへAI由来のリスクが強く食い込んできます。これは、単なるテクノロジーの流行というより、設備投資、人材配置、ガバナンス、情報管理の考え方まで見直す必要があるということです。短期の火消しだけでなく、長期の設計図をどこまで前倒しで描けるかが問われる局面に入っていると感じます。

読み物ではなく、経営会議の材料として使う

今回の3点セットは、「まず原典で全体観をつかむ」「次に1枚版で共有する」「最後に役員向け資料で論点を深掘る」という順番で使うと収まりが良いはずです。忙しい時ほど、資料は厚さより順番が効きます。全部を最初から読み込むより、入口を分けたほうが実務で回しやすくなります。

経営層・事業責任者

中期経営計画や投資判断の前提条件を見直したい方に向いています。市況や足元業績だけでは拾いきれない外部環境の変化を、少し引いた視点で確認できます。

経営企画・リスク管理・ガバナンス担当

リスクマップやシナリオ設計、BCP、情報管理、AIガバナンスの見直しなど、複数部門をまたぐ論点を整理する入口として使いやすい資料です。

現場で判断を預かるマネージャー層

「世界の話」で終わらせず、自部門のサプライチェーン、人材、情報、顧客接点にどう跳ね返ってくるかを考えるきっかけになります。

公開資料一覧

WEFレポート本体

https://www.weforum.org/publications/global-risks-report-2026/

社長向け1枚版

WEFGlobal_Risks_Report_2026_社長説明用1枚版.pdf

 

役員向け分析資料

WEF_Global_Risks_Report_2026_役員向け分析資料_v2.pdf

 

WEF年次総会2026:2025から「増えたテーマ/消えたテーマ」を公式情報で照合

毎年のダボスは、同じ言葉を繰り返しているようで、実は切り口が少しずつズレる。2026年の看板は「対話の力」。その裏側には、同盟も規範も揺れる“争点化した世界”という前提が透ける。2025と比較して、議題の主語がどこへ移ったのかを整理する。

https://www.weforum.org/stories/2025/10/davos-2026-convenes-under-the-theme-a-spirit-of-dialogue


まず前提:2025と2026で「全体テーマ」と「5本柱」が変わった

2025年は全体テーマが “Collaboration for the Intelligent Age” で、議論の焦点は「成長」「産業」「人」「地球」「信頼」の5領域に整理されている。

https://www.weforum.org/press/2025/01/a-call-for-collaboration-in-the-intelligent-age-world-economic-forum-annual-meeting-2025

2026年は全体テーマが “A Spirit of Dialogue(対話の力)” で、プログラムは「争点化した世界での協力」から始まる5つの主要課題に再編されている。

https://www.weforum.org/stories/2025/10/davos-2026-convenes-under-the-theme-a-spirit-of-dialogue

(日本語版の概要)https://jp.weforum.org/stories/2025/11/davos-2026-convenes-under-the-theme-a-spirit-of-dialogue-ja/ 


結論:2026で「新たに前面化」したこと/「柱としては消えた」こと

2026で新たに前面化した“独立テーマ”

2026は、5本柱の筆頭に 「対立が深まる世界における協力(cooperation in a contested world)」 を置いた。2025にも地政学や分断の文脈はあったが、2026は「対立がある状態でも協力を回す」ことが、最上位の問いとして独立した形だ。

https://www.weforum.org/stories/2025/10/davos-2026-convenes-under-the-theme-a-spirit-of-dialogue

(2026公式ミーティングページ日本語)https://jp.weforum.org/meetings/world-economic-forum-annual-meeting-2026/ 

2025から“柱としては”消えた(ただし中身は吸収された)もの

2025の5本柱のひとつ 「Rebuilding Trust(信頼の再構築)」 は、2026の5本柱の名称としては出てこない。代わりに2026は、会合テーマ自体を「対話の力」とし、信頼を“柱”ではなく“前提条件(対話と協力を成立させる土台)”へ回り込ませた配置に見える。

https://www.weforum.org/press/2025/01/a-call-for-collaboration-in-the-intelligent-age-world-economic-forum-annual-meeting-2025

https://www.weforum.org/stories/2025/10/davos-2026-convenes-under-the-theme-a-spirit-of-dialogue


5本柱の「対応関係」を、人間の体感に落として読む

1) 「信頼」→「争点化した世界での協力」へ(主語が変わった)

2025は“信頼を取り戻す”が柱だった。2026は“信頼がない前提でも協力が回るか”が柱になった。これは、理想論のスローガンから、合意形成・ルール・実装の「設計論」へ議論が寄った、という変化でもある。

2) 「産業の変容」→「責任あるイノベーションの大規模展開」へ(“作る”より“導入する”の責任)

2025の柱には 「Industries in the Intelligent Age」 がある。2026はこの看板が前に出ず、代わりに 「イノベーションを大規模に展開しつつ責任を担保する」 が柱になる。産業構造の話より、AIなどを社会へ入れる時の統治・責任・副作用の扱いが前に来た、と読める。

3) 「地球を守る」→「境界の範囲で繁栄する」へ(守るから、回すへ)

2025は Safeguarding the Planet(地球を守る)。2026は planetary boundaries(プラネタリー・バウンダリー) の“境界内で繁栄する”が柱になる。環境を「守る対象」から「経済設計の制約条件」へ置き換え、循環・再生・自然資本まで含めて“回る形”を問うニュアンスが強い。

4) 「成長の再構築」→「新たな成長源の開拓」へ(成長を“どう作り直すか”より“どこから出すか”)

2025は Reimagining Growth。2026は unlocking new sources of growth。言い回しの差は小さく見えるが、体感としては「成長モデルの議論」から「成長ドライバー(源泉)の発掘」へ寄っている。つまり、制度・技術・人材・投資が噛み合う“成長の出所”を探す方向。

5) 「人材投資」は継続(ただし、重みが増している)

2025も2026も Investing in People(人への投資) が柱として残る。対立・技術実装・環境制約が同時に進むほど、スキル・雇用・生活の土台が崩れやすい。だからここは“毎年あるテーマ”でありながら、毎年少しずつ現実味が増していく領域でもある。


2026の空気を補足する「今年の単語」(テーマ差分を“手触り”にする)

Davos 2026に向けて、WEF公式が「会場で飛び交いそうな用語」をまとめている。ここに出てくる語は、2026の議論が“理想”より“現実の摩擦”へ寄っていることを示す補助線になる(例:minilateralism、resilience economics など)。

https://www.weforum.org/stories/2025/12/some-phrases-you-might-hear-at-davos-wef-2026


まとめ:「テーマが変わった」のではなく、「言葉の置き場所が変わった」

2026から「信頼」が消えたように見えるのは、信頼が不要になったからではない。むしろ逆で、信頼は“柱”として掲げる段階から、対話と協力を成立させる“前提”として全体に溶け込む段階へ移った。だから2026は、理想の合言葉よりも、対立がある状態でどう回すか――設計の議論が増える。

https://www.weforum.org/stories/2025/10/davos-2026-convenes-under-the-theme-a-spirit-of-dialogue


参照URL(公式)