【第13回】追加データ・外部データの活用

はじめに

前回は「第12回:データ利活用による業務フロー改善」についてお話ししました。社内のフローにデータ活用を組み込み、現場レベルで効率化やミスの削減を進める重要性を解説しましたね。
ところが、いざ運用が安定してくると、「もっと分析精度を上げたい」「新たな需要を予測したい」「社内データだけでは把握しきれない情報がある」といった課題に直面することも少なくありません。そんなときに活用したいのが「外部データ」や「追加データ」です。

たとえばマーケティング分野では、SNSや口コミサイトの情報から消費者の声を拾い上げたり、天候や地域統計データを織り交ぜて需要予測の精度を高めたりといった活用事例が増えています。本記事では、「社外から得られるデータをどのように活用すればよいのか」「注意すべき点は何か」など、具体的なステップや事例をご紹介します。


1. なぜ外部データの活用が重要なのか

  1. 新たな視点や発見を得られる
    • 社内データは自社の状況を詳細に把握するのに役立ちますが、そこだけを見ていては市場や顧客ニーズの変化に遅れをとる可能性も。
    • 外部データを取り込むことで、自社だけでは気づけなかった傾向や、競合動向・業界のトレンドなどを把握しやすくなります。
  2. 需要予測やリスク管理の高度化
    • 特に天気や経済指標、人口動態といった外部要因によって需要が左右される業種は多いものです。
    • 例えば飲食・小売・観光などでは、天候情報やイベント情報を組み合わせることで、販売計画を最適化したり、仕入れの過不足を防いだりできます。
  3. 新規事業や商品開発のヒントを得る
    • SNSや消費者レビューサイトなどに投稿される生の声は、潜在ニーズや市場ギャップを見つけるうえで貴重な情報源です。
    • 既存のデータからは見えなかった顧客の潜在的な求める価値を掘り起こし、新商品開発やサービス改善に繋げられます。

2. 外部データの主な種類と入手先

  1. 公的機関の統計データ
    • 総務省、経産省、厚生労働省などが提供する統計情報(国勢調査、家計調査、産業別統計など)。
    • 政府のオープンデータサイトや、自治体が公開している地域別統計情報なども入手しやすく、信頼性が高い。
  2. 気象・気温・災害情報
    • 気象庁や民間の天気予報会社から提供されるデータ。
    • 1時間ごとの気温、降水確率、積雪量などを取得し、需要予測やイベントの集客予測に活用できる。
  3. SNS・口コミサイトデータ
    • Twitter、Instagram、Facebookなどから取得するユーザーの投稿データ(トレンドワード、ハッシュタグなど)。
    • 楽天やAmazonのレビュー、食べログやぐるなびなどの口コミ情報も、ユーザーの生の声を知る手段として注目されている。
    • ただし、無制限にクローリングするのは規約違反の可能性があるため、APIなど正規の手段を利用し、利用範囲を守る必要がある。
  4. 地理・位置情報データ
    • 地図サービスやGPS情報による人口流動や来店動線の把握。
    • 小売店・飲食店の場合、立地戦略や店舗集客の分析に活用できる。
    • こちらもプライバシーや個人情報保護の観点から、データの取得方法や利用範囲に注意が必要。
  5. 商用データベンダーによる市場レポート
    • 民間の調査会社やリサーチ企業が提供するレポート・調査データ。
    • 有償になるケースがほとんどだが、業界別に高度な分析が含まれている場合もあり、新規事業立ち上げ時には役立つ。

3. 外部データ活用の進め方

  1. 目的を明確化する
    • まず「どんな課題を解決したいか」「何を知りたいか」をはっきりさせないまま、大量の外部データを集めても扱いきれず混乱しがちです。
    • 例:天候データを使って販売計画を最適化したい、SNSから顧客の声を収集し新商品のアイデアを得たい、など具体的な目的を設定しましょう。
  2. データ入手方法と利用制限を確認
    • 公的データは無料かつ比較的自由に利用できることが多い反面、更新頻度や粒度が限られる場合があります。
    • SNSや位置情報データはプライバシーや利用規約が厳しく、二次利用に制限があることも。必ず利用ポリシーをチェックしてから導入を進めましょう。
  3. データのクリーニング・前処理
    • 外部データは取得フォーマットや精度がバラバラである場合が多く、社内データと結合する際に整合性をとる作業が必須です。
    • 日付形式、地域区分(市町村コード、郵便番号など)の取り扱いなど、あらかじめ変換ルールを定義しておくと後工程がスムーズになります。
  4. 社内データとの結合・分析
    • 商品コードや顧客IDといった共通キーがあれば、外部の補助情報を結び付けて、分析の幅を広げられます。
    • 例:販売データに天候情報を掛け合わせる→どの気温帯・天候条件で売上が伸びるのかを検証し、在庫計画に反映させる。
    • 例:顧客デモグラフィック情報と公開統計データを組み合わせ、特定エリアでのマーケティング施策を計画する。
  5. 分析結果の活用と効果検証
    • 外部データを導入して得られた気づきをどのように業務フローに組み込むか、あるいは商品開発に落とし込むかを明確にしないと、取得しただけで終わってしまいがちです。
    • 試験的に施策を実行し、その成果(売上、コスト削減、顧客満足度など)を測定することで、外部データの導入効果を評価します。

4. 具体例

  • 事例A:天候情報を活用した需要予測
    • 背景:ある小売チェーンが、週末の天候に応じてアイスクリームや飲料の売上が変動するが、予測がうまく行かず在庫ロスや機会損失が発生。
    • 取り組み
      1. 気温・降水確率を時間別に取得し、過去の販売データと組み合わせて機械学習モデルを作成。
      2. 来週末の天気予報をもとに売上予測を算出し、店舗ごとに最適な在庫数を提示。
    • 成果
      • 在庫ロスが2割減少し、欠品率も改善。
      • 季節変動や急な高温による売上増などに柔軟に対応できるようになった。
  • 事例B:SNSデータを使った商品改善
    • 背景:自社商品の売上が伸び悩んでおり、若年層の評判を知りたいが、直接の顧客調査だけでは本音をつかみにくい。
    • 取り組み
      1. TwitterのAPIを使用し、自社商品名やハッシュタグを含むツイートを一定期間収集。
      2. テキストマイニングでポジティブ/ネガティブ要素や頻出ワードを分析。
      3. 製品パッケージへの不満が多いことが判明し、デザイン改良と若者向けプロモーションを強化。
    • 成果
      • リニューアル後にSNSでの評判が改善し、販促キャンペーンとの相乗効果で売上が10%増加。
      • 顧客のリアルな声を迅速に反映できる体制が構築された。

5. 外部データ活用の注意点

  1. プライバシー・セキュリティリスクの管理
    • SNSや位置情報など、個人を特定しうるデータを扱う場合は、利用規約や関連法規を厳守し、適切な匿名化やアクセス制限を行う必要があります。
    • 万一の情報漏えいや規約違反があれば、企業の信用を失う大きなリスクとなります。
  2. コスト面の検討
    • 無料のオープンデータだけでなく、有料のデータベースを購入したり、データ収集のためのツール・API利用料がかかる場合もあります。
    • 外部データ導入によってどの程度のリターンが見込めるのか、投資対効果を試算しておきましょう。
  3. データ品質・更新頻度
    • 外部データの更新サイクルや取得タイミングが不規則だと、分析にズレが生じたり、リアルタイム性が損なわれたりします。
    • データソースの信頼性や更新頻度を事前に確認し、自社の分析に合うものを選ぶことが重要です。
  4. 過度な依存を避ける
    • 外部データはあくまで補足・補強的な役割を担うことが多いです。
    • 元々の社内データがしっかり整備されていなければ、外部データを加えても効果を十分に発揮できないケースもあります。

6. 今回のまとめ

社内データの分析がある程度進み、業務改善やKPI管理が安定してきた段階では、「外部データを活用して視野を広げる」 というアプローチが一層の飛躍をもたらす可能性があります。

  • 公的統計や天候情報、SNS、位置情報など、多様なソースが存在
  • 導入の目的を明確にし、適切なデータの取得と整備を行う
  • 社内データと組み合わせ、需要予測や商品改善、新規事業探索に活用
  • 利用規約やセキュリティ面をしっかり確認し、安全・合法的に運用

こうした取り組みを一歩ずつ進めていけば、会社全体のデータリテラシーがさらに向上し、新たな付加価値やビジネスチャンスを掴むきっかけが増えていくでしょう。

次回は「データ統合・DWH(データウェアハウス)の導入検討」について解説します。外部データを含めた多種多様な社内外データを一元管理・分析しやすくするためには、DWHなどの統合環境が有効なケースがあります。その導入ステップやメリットを詳しく取り上げます。


次回予告

「第14回:データ統合・DWH(データウェアハウス)の導入検討」
様々なシステムやファイルに分散しているデータを一元管理し、社内の誰もが使いやすい分析環境を整えるためのポイントや、導入時に気をつけたいことを解説します。

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