【第5回】目的別のデータ活用テーマ設定

投稿日:2025年4月4日 | 最終更新日:2025年4月4日

はじめに

前回の「データ活用の全社教育計画」では、組織全体がデータ分析を使いこなすために必要な教育の考え方や研修プランについてお話ししました。基礎リテラシーを養い、データに対する抵抗感を減らせたら、いよいよ次は「どんなテーマでデータを活用するのか」を考える段階に進みます。

いくら分析スキルがあっても、「どの課題をどのようにデータで解決するのか」が明確でなければ、現場は動きづらいものです。そこで今回は、「目的別のデータ活用テーマ設定」について解説します。事業や部署単位で掲げる目標やKPIが、データ分析の内容・方向性を大きく左右しますので、慎重かつ戦略的に設定していきましょう。


1. なぜ目的やテーマが重要なのか

  1. ゴールを定めることで、やるべき分析が見えてくる
    • たとえば「顧客リピート率を上げたい」のか、「在庫ロスを減らしたい」のかで、必要となるデータや分析手法は全く違います。
    • 目的が決まると、データ収集・加工・可視化の範囲もはっきりするため、スムーズに分析プロセスへ移行できます。
  2. 効果測定とフィードバックが可能になる
    • 目的やテーマに合わせてKPIを設定しておけば、分析の成果を数値で評価できます。
    • 改善策を実施した後にKPIをモニタリングし、効果を検証してさらなる改善に繋げる“データドリブン”なサイクルが回せます。
  3. 組織のモチベーションと連帯感を高める
    • 「部門ごとの共通課題」「チームで達成すべき目標」があると、メンバー同士で協力しやすくなります。
    • 具体的な数値目標が掲げられていると、達成感が明確になり、プロジェクトへのコミットメントが高まります。

2. 目的別データ活用テーマの考え方

  1. 大分類→小分類で段階的に落とし込む
    • まずは全社規模での大きな課題(売上拡大、コスト削減、品質向上など)を大分類として設定します。
    • その後、部署ごと・プロジェクトごとに「どの部分を」「どのように改善したいか」を具体的に分解し、小さなテーマに落とし込みます。
  2. KPI(重要業績評価指標)の設定
    • データ活用テーマはKPIとセットで考えると効果的です。「リピート率」「在庫回転率」「離職率」など、数値化できるものを指標にします。
    • KPIはあまり細かくしすぎず、2〜3個程度に絞ると管理しやすく、達成度の評価も簡単になります。
  3. 社内外のデータを組み合わせるアイデアも検討
    • 社内データ(売上、購買、在庫、人事など)と外部データ(天気、景気指数、SNSトレンドなど)を組み合わせると、より広い視点での分析が可能です。
    • たとえば、小売業では「天候や気温」と「売上データ」を掛け合わせて需要予測を精度高く実施する例があります。
  4. 優先順位付けを行う
    • すべてのテーマに同時に取り組もうとするとリソースが分散してしまうため、「どの課題が最優先か」「どのテーマが短期的に成果を出しやすいか」を検討します。
    • 優先度の高いテーマから着手し、成功体験を積むことで社内のデータ活用ムードを高めるのがおすすめです。

3. 具体例

  • 事例A:営業部門のテーマ設定
    • 課題:新規契約の数は増えているが、既存顧客の離脱が目立ち、リピート率が伸び悩んでいる。
    • 目的(テーマ):既存顧客のリピート率を10%向上させる
    • KPI:リピート購入率、顧客ごとの平均購入金額、顧客生涯価値(LTV)など
    • 分析アイデア
      1. 過去の購買履歴を顧客セグメント別に分析し、離脱傾向のある顧客グループを特定する。
      2. SNSやアンケートのテキストデータを活用し、顧客満足度の低下原因を洗い出す。
      3. 離脱防止施策(クーポン配布、フォローコールなど)を実施後、KPIをモニタリングする。
  • 事例B:製造部門のテーマ設定
    • 課題:在庫が過剰になりがちで、コストが増加している。廃棄ロスも出ている。
    • 目的(テーマ):在庫回転率を向上させ、在庫保管コストを10%削減する
    • KPI:在庫回転率、不良在庫率、廃棄コストなど
    • 分析アイデア
      1. 販売予測データを月別・品目別に細分化し、需要予測モデルを構築する。
      2. 過去の製造実績・需要変動を踏まえた生産計画の最適化を行う。
      3. 定期的に在庫レベルを可視化し、異常値(急激な在庫増など)をアラート表示する。
  • 事例C:人事・総務部門のテーマ設定
    • 課題:社員の離職率が高い。特に若手の退職が多く、採用コストが膨らむ。
    • 目的(テーマ):若手社員の離職率を20%削減する
    • KPI:離職率、エンゲージメントスコア(従業員満足度アンケートなど)
    • 分析アイデア
      1. 勤怠データ、残業時間、評価データなどを組み合わせて、離職傾向を予測。
      2. 離職リスクが高い社員の特徴(部署、勤続年数、研修参加状況など)を可視化。
      3. 早期面談やキャリア支援施策を打ち、施策前後でKPIを比較して効果検証。

4. テーマ設定を成功させるポイント

  1. 現場ニーズのヒアリングを重視する
    • 経営層や管理職だけでテーマを決めるのではなく、実際に業務を行う担当者の声を反映すると、課題設定がよりリアルになり、プロジェクトが進めやすくなります。
  2. 短期成果が期待できるテーマを組み合わせる
    • データ活用は、取り組み始めてから成果が出るまでに時間がかかる場合があります。
    • 「短期間で効果が出やすいテーマ」と「長期的に大きな価値を生み出すテーマ」をバランスよく選ぶと、モチベーションを継続しやすいです。
  3. KPIの数値目標は実現可能なレベルに設定
    • あまりにも高すぎる目標だと、達成できずに意欲が削がれるケースがあります。
    • まずは「現状の○%改善」を目指すなど、達成しやすい目標からスタートし、状況を見ながら引き上げていくのも有効です。
  4. 上位戦略との整合性を保つ
    • 会社全体の中期経営計画やビジョンが「海外展開の強化」であれば、海外顧客に関するデータ分析を優先するなど、上位戦略と結びつけることで社内の合意を得やすくなります。

5. 今回のまとめ

データ活用を具体的に進めるには、部署や事業ごとに「なぜデータ分析が必要なのか」「どんな成果を目指すのか」をはっきりさせることが大切です。目的やテーマ設定が曖昧だと、時間やコストをかけても期待した成果に結び付きません。

  • 大きな課題を小さなテーマに落とし込み、KPIを設定する
  • 優先度の高いテーマから着手し、成功体験を積む
  • 社内外のデータを組み合わせて、より豊かな分析を目指す

これらを意識して目的別のデータ活用テーマを設定すれば、実務での取り組みが明確になり、分析結果をもとにした業績改善や組織改革がスムーズに進みます。

次回は「分析ツール・プラットフォームの選定」について解説します。具体的にどのようなツールやシステムを導入すれば、今回設定したテーマをより効率的・効果的に実現できるかを見ていきましょう。


次回予告

「第6回:分析ツール・プラットフォームの選定」
Excelベースの分析か、BIツール、クラウド環境などの選択肢があります。自社の規模・予算・ITリテラシーに合った導入方法や、選定時のチェックポイントを中心にお伝えします。

コメントを残す

好奇心旺盛 48歳関西人のおっさん