準委任(SES)なのに「現場指揮」が起きる――その瞬間、偽装請負・違法派遣に近づく(公式資料で整理)

IT業界の準委任(いわゆるSES)案件で、客先の担当者が常駐エンジニア個人に対して「今日はこれ」「順番はこう」「ここまで今日中」と日々の指揮を出してしまう――この構図は現場で繰り返し起きています。

しかし、行政(厚生労働省等)の整理は一貫しており、契約書の名称が準委任/請負であっても、実態として“発注者(派遣先)が労働者に指揮命令している”なら労働者派遣に該当し得る、という考え方です。

(出典:厚生労働省「労働者派遣・請負を適正に行うためのガイド」https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000077386_00020.html  )

この記事では、**「どこからがアウトか」**を、厚生労働省・労働局等の一次資料を中心に、現場運用の言葉へ落として整理します。

※本稿は一般的な情報提供で、個別案件の適法性判断や法的助言ではありません。迷った場合は後述の窓口で相談してください。


1. まず結論:境界線は「成果物」ではなく「指揮命令」の有無

準委任・請負(業務委託)は、基本的に 受託側が自らの裁量で業務を遂行します。

対して労働者派遣は、派遣先の指揮命令を受けて労働に従事させるものです。

(出典:厚生労働省「労働者派遣事業について」https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/roudoushahakennjigyou.html  )

そして、厚生労働省は **「契約形式ではなく実態」**で判断すると明示しています。

(出典:厚生労働省PDF「労働者派遣と請負の区分の必要性」https://www.mhlw.go.jp/bunya/koyou/dl/tekisei_0002.pdf  )


2. 「偽装請負」とは何か――準委任も含めて起き得る

東京労働局は、偽装請負を次のように説明しています。

書類上は請負(委任・準委任・委託等を含む)でも、実態が労働者派遣であるもので、違法になり得る。

(出典:東京労働局「偽装請負について」https://jsite.mhlw.go.jp/tokyo-roudoukyoku/hourei_seido_tetsuzuki/roudousha_haken/001.html  )

さらに厚生労働省は、「偽装請負」という言葉の中に


3. 現場で「アウト」に寄りやすい具体例(ITで頻発)

境界線で一番誤解されやすいのが、ここです。

要点は、発注者が“成果”ではなく“人”を動かしているか

アウト寄り(偽装請負/違法派遣に近づく動き)

次が重なるほど危険度が上がります。

  • 発注者が、常駐者“個人”に直接、タスクの割り振り・順序・優先度・期限(緩急)を指示する
  • 発注者が、勤怠・出退勤・休暇・残業の指示や承認を実質的に行う
  • 受託側の責任者が名ばかりで、発注者の指示を伝言するだけになっている
  • 変更要求が「受託側の窓口」ではなく、作業者へ直投げされる

「発注者から直接、業務の指示や命令をされる」場合は偽装請負の可能性が高い、という趣旨を東京労働局が明確に述べています。

(出典:東京労働局「偽装請負について」https://jsite.mhlw.go.jp/tokyo-roudoukyoku/hourei_seido_tetsuzuki/roudousha_haken/001.html  )

また、判断は37号告示(区分基準)に基づき、実態で行うとされています。

(出典:厚労省PDF「37号告示(区分に関する基準)」https://www.mhlw.go.jp/bunya/koyou/dl/h241218-01.pdf  )


4. 「技術的な説明」や「要件の共有」も全部ダメなのか?

ここが“現場が踏み抜く原因”になりがちです。

結論として、要件・成果の説明や情報共有それ自体が直ちにNGとは限りません

しかし、そこから先で **「個人への作業指示」や「遂行の管理」**に踏み込むと派遣に近づきます。

厚生労働省の疑義応答集は、事例ごとに実態判断であること、そして異なる事例は労働局で個別判断になることも明示しています。

(出典:厚生労働省「37号告示関係疑義応答集」https://www.mhlw.go.jp/bunya/koyou/gigi_outou01.html  )

現場感としては、次の切り分けが安全です。

  • OK寄り:仕様・要件・受入基準を「受託側の責任者」に伝える/成果物のレビューをする
  • アウト寄り:仕様変更の“作業手順・優先順位・期限”までを発注者が個人へ直接指示する(=人を動かす)

5. なぜ「法律知識がない発注企業が多い」と感じるのか(構造)

この問題は、単なる知識不足だけでなく、ITの仕事の性質が大きいです。

  • 運用保守・改善・障害対応などは「成果物一発納品」より「一緒に回す運用」になりやすい
  • 「準委任=人月=現場の一員」という慣習が残り、指示を出したくなる
  • しかし行政は「契約名」より「実態」を見るため、現場運用がズレた瞬間に危険域へ入る (出典:厚生労働省PDF「区分の必要性」https://www.mhlw.go.jp/bunya/koyou/dl/tekisei_0002.pdf  )

6. 明日から使える「現場設計」チェックリスト(発注側・受注側)

発注側(客先)が守るべき運用

  • 指示の窓口を 受託側の責任者(PM/リーダー)に一本化する
  • 個人に対して、割付・順序・緩急・期限を直接言わない(必要なら受託側責任者へ)
  • 勤怠や残業の指示・承認に関与しない
  • 変更要求は「成果・要件」として伝え、遂行の組み立ては受託側に委ねる

受注側(SES/委託側)が守るべき運用

  • 現場責任者を“伝言係”にしない(タスク設計・優先度判断・進捗管理の主導権を持つ)
  • 体制図・指揮命令系統・連絡経路を明確化し、運用で徹底する
  • 「指示を出すのは誰か」「勤怠管理は誰か」を現場ルールとして明文化する

※最終的な判断は、37号告示(区分基準)と、その考え方(ガイド)に沿って実態で行われます。

(出典:厚生労働省PDF「37号告示」https://www.mhlw.go.jp/bunya/koyou/dl/h241218-01.pdf /厚労省ガイドページ https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000077386_00020.html  )


7. 困ったときの相談先(労基署・労働局・厚労省)

労働基準監督署(全国の所在)

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/location.html

(出典:厚労省「全国労働基準監督署の所在案内」  )

都道府県労働局(所在地一覧)

https://www.mhlw.go.jp/kouseiroudoushou/shozaiannai/roudoukyoku/index.html

(出典:厚労省「都道府県労働局所在地一覧」  )

「労働者性に疑義がある方」の相談窓口(厚労省・報道発表)

フリーランス契約でも実態が労働者に近い可能性がある場合など、相談導線が案内されています。

https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_44487.html

(出典:厚労省報道発表  )


まとめ:直すべきは契約名ではなく「指示の通し方」

  • 境界線は「成果物がある/ない」より、発注者が個人に指揮命令しているか
  • 厚労省は一貫して、契約形式ではなく実態で判断するとしている
  • IT現場は「一緒に回す」圧が強いからこそ、窓口一本化受託側主導の遂行管理が鍵になる

参照した一次資料(URL文字表記)