【第19回】RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)との連動

はじめに

前回の「第18回:データ分析コミュニティの形成」では、有志メンバーが集まって知見やスキルを交換し合う「コミュニティ」がデータドリブン文化を育むうえで非常に有効であるとお伝えしました。
一方で、日々の業務には、いまだに「時間がかかる」「繰り返しが多い」「ミスが起きやすい」といった定型作業が存在し、現場や分析担当者の負担になっているケースも多いのではないでしょうか。これらの定型業務を自動化できれば、より多くの時間とリソースを分析や戦略的な意思決定へ注力できるようになります。

ここで活用したいのが「RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)」です。今回は、RPAの概要や導入効果、そしてデータ分析との連動によってどのように業務効率化や人為的ミス削減に繋げられるかを解説します。


1. なぜRPAが注目されているのか

  1. 定型業務の自動化による生産性向上
    • 例えば「複数のシステムからデータを取得してExcelにまとめる」「メールの添付ファイルを保存して社内サーバーへアップする」といった繰り返し業務はRPAが得意とする分野です。
    • 人がやると時間もかかり、ミスも発生しがちですが、RPAに任せれば正確かつ迅速に処理できます。
  2. 人的リソースの有効活用
    • 定型業務をRPAへ置き換えることで、社員はより付加価値の高い業務(分析や企画、顧客対応など)に専念できます。
    • 人手不足や働き方改革が求められる中で、RPAは効率化の切り札として期待されています。
  3. 比較的導入が容易
    • 近年のRPAツールはノーコード/ローコードで扱えるものが多く、システムの専門知識がなくても自部署で導入を進めやすいケースが増えています。
    • 大掛かりなシステム改修を要せず、PC上の操作を自動記録・再生するような形でスタートできる点も魅力です。

2. データ分析とRPAの相乗効果

  1. データの収集・加工をRPAが自動化
    • データ分析の準備段階では、「異なるシステムやファイルからデータを取得・整形する」ことが多くの手間を要します。
    • RPAを使えば、ログイン操作からファイルダウンロード、Excelでの項目整理などを自動化でき、分析担当者は“分析業務そのもの”に集中できます。
  2. RPAから得られるログをさらに分析に活用
    • RPAが処理したタスク数や処理時間などのログデータを集計すれば、どの業務がボトルネックになっているかを把握できます。
    • これを踏まえてRPAロボットの追加導入や業務フローそのものの見直しなど、より高度な改善を行うことが可能です。
  3. 人為的ミスを減らし、データ品質を向上
    • 手作業での入力・コピペ作業が多いほど、データ入力ミスや整合性問題が生じるリスクが高まります。
    • RPAを導入すれば自動化されるため、正確なデータがDWHやBIツールへ連携しやすくなり、分析結果の精度が高まるメリットもあります。

3. RPA導入の進め方

  1. 対象業務の選定
    • まずは「定型手順が多い」「繰り返し頻度が高い」「手入力やコピペが中心でミスが起こりやすい」といった業務を洗い出します。
    • 分析担当に聞くと「この集計、毎日1時間かかっていて面倒」「複数システムから同じ情報をまとめる作業がある」などの声が出てくるかもしれません。
  2. ツールの選定とPoC(概念実証)
    • UiPath、Automation Anywhere、WinActorといったメジャーなRPAツールだけでなく、Microsoft Power Automateなどのクラウド系ツールもあります。
    • 自社のシステム環境やセキュリティ要件、コスト面を考慮しつつ、まずはPoC(小規模なテスト導入)で実際にロボットを動かしてみると良いでしょう。
  3. ロボットのシナリオ作成・テスト運用
    • RPA開発では、システム操作の手順を「レコーディング」したり、画面遷移や条件分岐をフローチャートで組み立てたりします。
    • 作成したロボットが誤動作しないかをテストし、本番環境に移行する前に例外処理(エラーが起きた場合の対応)を検討しておきましょう。
  4. 本番稼働・運用ルールの確立
    • RPAロボットのスケジュール(いつ動かすか)やメンテナンス体制を決め、定期的にモニタリングやログ確認を行います。
    • 社内で複数のロボットが稼働するようになると「ロボット管理者」や「RPA推進担当」といったポジションが必要になることもあります。
  5. 効果測定と拡大展開
    • ロボット導入後に、どれくらい工数が削減されたか、人為的ミスが減ったかなど定量的に測定し、社内に共有します。
    • 成果が認められれば、他部署への横展開やより複雑な業務の自動化も検討しやすくなります。

4. 具体例

  • 事例A:営業レポート作成の自動化
    • 背景:営業データをBIツールに連携する前に、毎日エクセルで2時間かけて整理・加工している担当者がいる。
    • 取り組み
      1. RPAで販売管理システムにログイン→CSVダウンロード→Excelで整形→特定フォルダに保存、を自動化。
      2. 整形されたデータをBIツールが定期的に取り込むよう連携。
    • 成果
      • 営業担当者の負担が激減し、日次レポートが毎朝自動でダッシュボードに更新。
      • 2時間×月20日=40時間/月の削減効果があり、担当者は顧客対応や分析に時間を使えるようになった。
  • 事例B:請求処理の効率化
    • 背景:バックオフィスで、毎月数百枚の請求書をPDFから数字を読み取り、会計ソフトへ転記している。ミスがあると二重チェックが必要。
    • 取り組み
      1. RPAツールとOCR(文字認識)を組み合わせ、請求書PDFを読み取り→必要項目を抽出→会計ソフトへ自動入力するロボットを作成。
      2. 入力結果をまとめて担当者が簡易チェックし、問題なければ確定処理。
    • 成果
      • 月末月初のピーク残業が大幅に削減。転記ミスがほぼゼロとなり、監査対応もスムーズ。
      • バックオフィス担当はデータの分析や支払いスケジュール最適化など、付加価値の高い業務に注力できるように。

5. 成功のためのポイント

  1. 小さく始めて効果を実感
    • 全社的に大規模なRPA導入を一気に進めると、初期投資や運用負荷が高くなる可能性があります。まずは一部の業務でPoCを行い、効果を実証してから拡大するほうがリスクが低いです。
  2. RPAと業務フローの一体化
    • 人が行う作業とRPAロボットの役割分担を明確にし、オペレーションマニュアルに落とし込みましょう。
    • RPAが止まったときのバックアップ手順や、異常発生時の連絡先なども整理しておくと、現場が混乱せずに済みます。
  3. データの入力ルール・マスタ整備
    • RPAを導入しても、元データやマスタ管理が杜撰だと自動化処理がエラーを起こしやすくなります。
    • データ品質向上施策(第7回でも触れました)を並行して進め、安定した稼働を確保しましょう。
  4. RPAの運用監視と継続的なメンテナンス
    • システム画面のレイアウト変更など、業務環境が少し変わっただけでもRPAシナリオが動かなくなるリスクがあります。
    • バージョン管理や定期テストを行い、ロボットが正しく動いているかをモニタリングする体制を作ってください。

6. 今回のまとめ

RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション) を活用することで、繰り返しの多い定型作業やデータ加工プロセスを自動化し、人力のミスを防ぎつつ作業時間を大幅に削減できます。その結果、分析担当者や現場スタッフが“分析・改善”に専念できる環境が整い、データ活用のレベルがさらに高まるでしょう。

  • 定型的なデータ取得や整形をRPAに任せ、分析・意思決定に時間を使う
  • 業務フロー全体を見直し、RPA導入の効果を定量的に測定
  • 小さく始め、効果を共有してから段階的に拡大導入

これらを意識し、RPA導入とデータ分析を組み合わせれば、“ヒト”と“ロボット”それぞれの強みを活かした最適な業務オペレーションが実現するはずです。

次回は「データ活用の進捗と成果を可視化する仕組み」について解説します。ここまでの取り組みをどのようにモニタリングし、経営層や関係者に共有していくか。ダッシュボードや定例レポートを活用した進捗管理のコツをご紹介します。


次回予告

「第20回:データ活用の進捗と成果を可視化する仕組み」
さまざまなデータ活用プロジェクトが同時並行で進む中、それぞれの進捗や成果を“見える化”し、経営会議や社内共有の場でスピーディに把握するにはどうすれば良いか――具体的な運用アイデアをお伝えします。